ドナリィンの恋
 佑麻はドナを起こしたくなかった。いったん起きてしまえば、再び時が動きだし、別れの時までのカウントダウンが始まる。ここで彼女が眠っている限り、時は止まりいつまでも一緒にいられる気がしていた。だがやはり、残酷な現実は避けることができまい。
「ここどこ? 天国?」ドナが目を覚ました。
「いや、ワイナリーのブドウ園さ。」
 ドナは半身を起こし、月に照らされるブドウ園を見入っていた。
「きれいね。Strange, I feel like I’m in the bottom of the sea.
(何か不思議な感じ。海の底にいるみたい。)」
 彼女もまたこの景色に、佑麻と同じものを感じていたのだ。
「I bring you here, hoping that it will live a memory in Japan to your heart and mind.
(日本の思い出に、この景色を見せたかったんだ。)」
 佑麻は、『思い出に』は余計だったかと後悔し、あわてて言葉を続ける。
「Is that the same moon you have in the Philippines?
(あの月はフィリピンと同じかい?)」
「We’re looking at the same moon, but there’s a lot of difference.
(見ている月はひとつのはずだけど、同じとは思えないわ。)」
「What’s the difference?(向こうの月は、どんなだろうね。)」
 『あなたの目で確かめに来たら。』佑麻はそう言ってくれるはずのドナの言葉を待った。しかし、ドナは何も言わない。ふたりとも深い静かな海底に沈んでゆくような、そんな時間が過ぎていく。やがて、ドナが静寂を破って口を開いた。
「ユウマ。The first time we met was not really good. But after that until now it gives me a good memory. A very happy memory that I will never ever forget, because it will stay in my heart. Thank you.
< 45 / 106 >

この作品をシェア

pagetop