ドナリィンの恋
(あなたとの出会い方は最高とは言えなかったけど、日本であなたと過ごした日々は、本当に最高の思い出になったわ。一生忘れません。心からお礼を言います。ありがとう。)」
 礼を言うドナであったが、その言葉は佑麻の心に素直にしみ込んでいかなかった。
「It’s getting late now, Shall we go home ?
(叔母が心配するから、そろそろ帰りましょう。)」
 ドナに促されて佑麻は立ち上り、ブランケットを肩に羽織ったドナの手を引いて丘を下った。

 帰国までの残った数日は、ドナは叔母のノルミンダの立てたスケジュール通りに過ごした。東京ディズニーランド。福井の親戚訪問。京都散策。たぶん生涯二度と訪れる機会のない日本の観光を貪るような、貪欲な数日間だった。そんな忙しい合間でも、時折ドナが見せる遠い視線をノルミンダは見逃さなかった。そして、京都から帰りの新幹線で隣に座るドナが、まさにそんな表情をしていたのだ。
「Ate Baby.(アテ・ベイビー)」
 ドナは叔母をそう呼んだ。
「Masaya ka ba na kinasal sa hapon?(日本人と結婚して幸せ?)」
 突然の問いに戸惑いながらも、
「Masaya ako dahil wala naman problema. Pero...
(今の結婚生活に不満はないわ。ただ…。)」叔母は視線を窓の外に移しながら続けた。
「Mas masaya sana ako kung makakasama ko syang manirahan dyan sa pilipinas.
(フィリピンで一緒に暮らせたらいいのにと、時々想うの。)」
「Bakit di na lang kayo manirahan dito?(どうして暮らせないの?)」
「17gulang pa lang ako ng mag umpisa akong mag trabaho sa Japan.
(私は、17歳の頃から、日本に来て働いているの。)
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