ドナリィンの恋
 ドナは、周りを見渡して何度佑麻を探したろうか。ブドウ園以来、彼からの連絡もなく今日まできてしまった。ドナもその後ノルミンダと過ごす日々が多かったので、佑麻に連絡がし辛かった。今日が最後の日。彼の姿を一目でも見られればと神に祈ったが、未だに彼を見つけることができないでいる。ブドウ園であんなことを言ったからもう会わないつもりなのだろうか。ドナは沈む気持ちを叔母夫婦に悟られまいと、努めて明るく振舞った。やがて出発の時間が来た。出発ゲートへ歩きながら、自分の心を鎮めて彼を見つけることを諦めることにした。ゲート前で叔父がペットボトルの処理をしている間、ドナは佑麻に最後のメールを打った。

 佑麻はゲートに進むドナを眺めながら、現実なんてこんなもんだと吐き捨てた。堂々と送りにもいけない自分を、情けなく思った。佑麻の携帯にメールが着信したのは、その時である。
『Thank you for everything, Donna.』
携帯を持つ手が震えた。本当にこれがドナを見る最後なのだ。気がつくと佑麻はドナに向かって走っていた。
 ドナは叔母に最後のハグをしている肩越しに、物凄い形相で走ってくる佑麻を見た。不思議とドナに驚きはなく、ただ願いを叶えてくれた神様へ感謝の言葉を何度も繰り返した。佑麻は、荒い息を静めながら、ドナの前に立つ。彼の手に握り締められていた携帯を見てドナが言った。
「You were here and why you didn’t show up?(今までいたくせに、出てこなかったの?)」
「ああ。」
「Until my last minute in Japan, You're proving that your Bad guy.
(最後まで悪い奴ね、あなたは。)」佑麻を見るドナの瞳がわずかに潤む。
 それからふたりは長い間言葉もなく見つめ合った。お互いがお互いからのサインを必死に探し合っているかのようだった。見かねた叔父がドナを促した。
「ドナ、飛行機に遅れるよ。」
 ふたりが同時に叔父を見たので、叔父は何だか悪いことしたような気になって後ろへ退く。向きなおした佑麻がドナに言った。
「元気で。」
「Ikaw rin.(あなたもね。)」
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