ドナリィンの恋
「マムに頼んであげてもいいけど、うちのマムは厳しいわよ。何もしないで遊んでいるだけだったら家に入れてもらえないと思う。それでも良いの?」
「もちろんだよ。」蚊に刺されながら大学の門の前で寝るのは、もうごめんだ。今の佑麻は、それが避けられるならどんな条件ものんだであろう。
 ドナは、大学の用事が済むまでここで待つように佑麻に言ったが、今までのサバイバルを考えるとドナと一秒たりとも離れるのが怖いと言ってきかない。この三日間でよほど打ちのめされたのだろう。仕方なく、ドナは佑麻を引き連れて大学校内へ。ゼミの先生との打合せの時も、講義の最中も、佑麻はドナのそばを離れない。日本人のPogi(イケメン男)にべったりくっつかれて歩くドナは、校内でたちまち注目の的となる。クラスメイトからはやしたてられ、はたまたゼミの先生からも、ドナの新しいペットかなどと皮肉を言われる始末。それでも誰も校内から佑麻を追い出そうとしないところが、この国のおおらかさでもある。
 佑麻は、ドナの家に向かうジプニーの中でも喋り通しだった。
「この国はなんでこうも道端で寝ている人が多いんだ。貧困というよりは、年中暖かいから家がなくとも生きていけるからかね。この国に雪が降ったら大変だ。きっと大勢死んじゃうと思うよ。」
「しかし、街にゴミが多いよね。見ているとみんなゴミをポイ捨てなんだ。街にゴミ箱も見あたらないし。路上に捨てられたゴミはその後どうなっちゃうんだい。もっと市民のモラルを高めないといけないな。」
「トイレに行きたくて、学校のを借りたんだけど、なんで紙がないの?バケツに水が張ってあるだけで、用を達した後どうするのかな。まさか、手で拭けなんてことないよね。」
 佑麻は、三日間の都市観察で得た感想を一生懸命に語って聞かせていたが、たいしてドナの耳に入ってはいかなかった。ドナはただ目の前に実在する佑麻の、声や体温や香りを体感できることに酔っていた。
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