ドナリィンの恋
キャセイパシフィック航空の機内トイレで愚痴を言う麻貴は、航空会社の飛行機は、たいがいペイントが違うだけで同じ飛行機であることに気づいていないようだ。ラバトリーでメイクのチェックを終えると、勢いよくドアを開けた。あまりにも乱暴にドアを操作したので、手をドアにあててしまい化粧ポーチを落としてしまった。あわてて拾おうとする麻貴を制して、外で待っていた実業家風の青年がひざまずいてポーチを拾い笑顔で麻貴に渡す。『高そうなスーツ着ちゃって…。気障な奴だな。』そんな印象を持ったが、麻貴はさすがにそんな言葉は呑み込んで「Thank you.」とおとなしくポーチを受け取った。自席へ向かう麻貴の後ろ姿に、何か言いたげな青年だったが、彼女があまりにも早く歩み去ってしまったので、声を掛ける暇もなかったようだ。青年は香港からこの飛行機に乗り込んできた。麻貴は羽田空港から香港でトランスファー。実はこの青年は香港国際空港の乗機待ちロビーで、すでに麻貴に関心を持ち、何度も彼女を盗み見していたのだ。
そんな視線に気づきもせずに、自席のシートベルトを乱暴に装着しバッグから写真を取り出す。佑麻が自分のフェイスブックに最近アップロードしたものだ。マニラのどこかの市場で買い物をしている。質素な身なりだが満面の笑顔。その横にドナがいた。麻貴はつぶやいた。
『佑麻のやつ、必ず見つけ出して、首に縄をつけても連れて帰ってやるからな。』
田舎から帰ってきたドナと佑麻は、休む暇もなく今日はマムのおともで街の銀行へ出かける。足の弱いマムは、ほとんど街を出ないのだが、銀行預金の事務処理でどうしても本人が出向かなければならないらしい。マムがドナをお伴にしたのは当然だが、佑麻も引き連れていったのは、彼以外の男達はみな忙しくてボディーガードの役に就けなかったからだ。
そんな視線に気づきもせずに、自席のシートベルトを乱暴に装着しバッグから写真を取り出す。佑麻が自分のフェイスブックに最近アップロードしたものだ。マニラのどこかの市場で買い物をしている。質素な身なりだが満面の笑顔。その横にドナがいた。麻貴はつぶやいた。
『佑麻のやつ、必ず見つけ出して、首に縄をつけても連れて帰ってやるからな。』
田舎から帰ってきたドナと佑麻は、休む暇もなく今日はマムのおともで街の銀行へ出かける。足の弱いマムは、ほとんど街を出ないのだが、銀行預金の事務処理でどうしても本人が出向かなければならないらしい。マムがドナをお伴にしたのは当然だが、佑麻も引き連れていったのは、彼以外の男達はみな忙しくてボディーガードの役に就けなかったからだ。