ドナリィンの恋
"Send me a mail when you need my help. yuma-i@ **.******.jp ISHIZU, YUMA."
 彼の名前はユウマなんだ。メモを見つけたドナの歓声で、驚いた叔母夫婦が部屋に駆け込んできた。

 大学サークルでのアイスホッケーの練習が終った。ロッカールームへ駆け込むと、佑麻はまず携帯をチェックした。メールはない。やはり、相手に連絡させるのはハードルが高かったのかもしれない。花を受け取ってもらってから1週間。彼女からのレスポンスはなかった。メモに気づかなかったのか。それとも全く関心がないのか。今となっては、あの夜タクシーで彼女の携帯番号を取っておかなかったことが悔やまれる。また、待ち伏せしかないのかよ。ストーカーだよな、これじゃ・・・。そう思いめぐらせていると突然、携帯に着信が来た。取り落とすほどのあわてぶりで携帯をとったが、残念ながら相手は佑麻の待ち人ではなかった。
「俺だ。もう練習終わっただろ。由紀の買い物に付き合う前に、診療室に寄れ。」佑麻の兄からのコールだった。
 佑麻の父が院長の病院。そこに、長男が内科医として勤務している。佑麻が兄の診療室のドアを開けると、兄はすでに外来を終えて書き物をしていた。
「来たか。」
「なんか用?」
「自由専攻学部のお前も、そろそろ専攻を決めなきゃいけない時期だろう。」
「ああ」
「どうするつもりだ。やっぱり、医者になる気はないのか?」
「・・・」
「この病院で俺が内科を診て、お前が外科を診る。それが親父の希望なのは知っているよな。」
「・・・俺には、人の生死に直接関わる仕事につくなんて勇気はないよ。」
「大げさに考えすぎじゃないのか。」
「・・・」
「まあいい。親父の期待は別にしても、進路を決めたら真っ先に俺に言うんだぞ。わかったな。」
「わかったよ。」
「ところでこれから由紀の買い物のお供だろ。忙しい俺の分まで、ちゃんと面倒見てくれよ。俺達の可愛い妹なんだから。」兄は札入れから、万札を数枚取り出した。
 佑麻が診療室を出ると、外来ロビー待っていた由紀が、可愛く手を振りながら、大きな声で彼を呼ぶ。
「佑麻にいちゃん!」
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