ドナリィンの恋
 由紀の天真爛漫な言動は、女子高校生になっても変わらない。兄は、父の手で厳しく育てられた。佑麻は母の愛で、優しく育てられた。しかし、由紀は幼い頃に母が亡くなったので、母の顔もぬくもりも、何も覚えていない。だから、兄と佑麻は母親代わりに、末妹の由紀を可愛がった。そのことが、天真爛漫な由紀を作る結果となっている。幼かった由紀も、今では少女から女性へと変化し始める時期で、妹ながら見ていても愛らしいと感じる兄達だった。
「兄貴から、由紀へ小遣いだよ。」さきほど渡されたお金を由紀に渡す。由紀は、そこそこイケメンで自分に甘い二人の兄が大好きだった。
「ラッキー、それでは出発ーっ!」佑麻は由紀に腕を取られて、ワールドブランドショップが立ち並ぶショッピングモールへと引かれていった。

 ドナは花束を受け取って以来この1週間、落ちつかない日々を過ごしている。もしかしたら、彼はメールを待っているのかもしれない。なら、メールを送るべきか、でも、これといって用もないのに送ったら軽い女にみられるかもしれない。やっぱりやめよう。けど、会って話したい気もする。いいや、お互いの母国語が通じない二人が会って何を話すのか。こんな問答がメビウスリングとなって頭を巡る。日本の看護学校の見学を終えたバスの中で、ドナはこの日もメビウスリングと格闘していた。
 バスが信号待ちで止まった。ドナがふと車窓から街に目を移すと、眺めていた街の中で、まぎれもない佑麻の姿が目に飛び込んできた。彼は両手に女性物ブランドの買い物袋を持ち、キュートな女性に腕を引かれて、楽しそうにまた次のショップに入ろうとしている。
「Napaka walang hiya nya.…
(私がメール一本に悩んでいるときに、あいつは女の子と楽しく買い物かよ。)」
 ドナは無性に腹が立ってきて、自分の携帯を取り出すとメールを打った。
『I'm hungry, meet me now at the bus-station close to my house!!! Donna.
(おなかすいたわ。家の近くのバス停まで来て、今すぐ!ドナ)』
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