黒王子は不器用な騎士様!?
昔から、私を本当の妹のように見つめるその瞳が、私は大好きだった。
「あのね、今朝の稽古でおじいちゃんに褒められたんだ~。」
『へぇ…あの師範が。珍しいな。』
修哉さんはおじいちゃんのことを尊敬の意を込めて"師範"と呼んでいる。
最初はその呼び方に慣れなかったものの、おじいちゃんの剣道歴と技術、段位を考えると、"師範"という呼び方も当然のものだった。
おじいちゃんが剣道に関する全てのものに対して厳しいのは有名で、孫の私でも稽古となれば容赦はない。他のことで褒められることは多々あっても、剣道で褒められたことは人生の中で片手で数える程度しかないのだから。
そんな厳格なおじいちゃんに褒められたのだ。――機嫌が良くなって、朝ご飯を作りながら鼻歌を歌ってしまうのも仕方ないじゃないか。
「…あ、今日の夕方、修哉さん空いてる?」
『ん?』
「手合わせ頂戴したいな、と。」
実を言うと、修哉さんは剣道4段の持ち主。…つまり、無茶苦茶強い。今度都内で開催される昇段審査でも5段昇位確実と言われているほど。
時々、私は自分の実力の程度を計るためにも、修哉さんに試合をさせてもらっている。…修哉さんには大分手を抜かれているけれど。
『…うん、いいよ。今日は6時くらいには帰るから。』
「やったー!絶対、だからね!?」
『あまり気を入れすぎないようにね。』
朝からテンション高く喜ぶ私に、修哉さんは苦笑いしている。
社会人である修哉さんは、都内の役場で働いている。休みは安定しているのだけど、残業も時々あるようで帰ってくる日が少し遅いときもあるから、こうやって朝に修哉さんと予定を合わせていないといけないのだ。