黒王子は不器用な騎士様!?



『…ああ、どうりでその恰好なんだね。』

「うん。」


卵焼きを焼いている私に目を向けた修哉さんが、納得がいったかのように微笑んだ。

休日の私は、予定がないときは大抵部屋着で過ごしている。

特に、家事をするときは寝間着のまましている時もある。

だから、こんないかにも余所行きの格好をしている私を見て、私がどこかに出掛けることに納得したのだ。


『どこに行くの?』


順調に卵焼きを巻いていたお箸が、修哉さんの何気ない一言で、一瞬だけピタリと止まってしまった。

……いかんいかん、早くしないと。

狼狽えるな、と自分に言い聞かせながら、卵焼きを巻くのを再開した。


「…薔薇園だよ。」

『……え?』


私の小さな声に、修哉さんは予想通りの反応を見せた。

お味噌を溶かしていた手をピタリと止めて、私を凝視しているのが、隣にいる修哉さんからひしひしと伝わってくる。

ムリもないだろう。

幼稚園児ならまだしも、高校生にもなって、薔薇園だなんて。

これが壊したスマートフォンの弁償じゃなかったら、絶対に断っていた誘いなのだから。


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