黒王子は不器用な騎士様!?



"気を付けて行ってらっしゃい。"


今日一日、最近怠っていた自主稽古をして過ごすという剣道着を身に着けた修哉さんに玄関先で見送りをしてもらって数十分後、私は黒王子との待ち合わせ場所に来ていた。

約束の10時まで、あと5分。

休日ということもあってか私の周りは家族連れやカップルなど人通りが激しく、自分一人だけが浮いているように感じてしまう。

早く来てほしいけど、来てほしくない気持ちもある。

先方に用事ができたとか、寝坊したとかでもいいから、ここまで来たらドタキャンしてもらいたい。

……なんて、矛盾な気持ちを抱えながら、駅前の噴水前でひたすら黒王子が来るのを待つ。


"写メ!黒王子の写メ撮ってきて!"


――うわ。ヤな事思い出した。

金曜、憂鬱な気持ちを前面に出しまくっていた私とは対照的にテンション高めに興奮していた明日香の面倒極まりない頼みごとを、こんな時に思い出した私。

どんなに"嫌だよ"と言って渋い顔を見せても、出来たらでいいからお願い!と明日香の押しに負けたのだ。


……アイツの性格を考える限り、写真を撮らせてくれる可能性はゼロに等しいだろう。

写真撮らせて、なんて口走ろうものなら、キモイという冷徹な一言で蹴られることなんて目に見えてる。

万が一撮らせてもらえても、写真代とか言ってお金せびられたりして……って、そこまで意地汚くないよね、いくら黒王子と呼ばれる人でも。



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