黒王子は不器用な騎士様!?



『返事は。』

「は、はい!じゃなくて…うん。」


冷めた流し目で返事を促される。

有無を言わせない黒王子の雰囲気にのめりこんでしまった私は、自分の意志とは関係なく首を縦に振ってしまう。

これは……一種の脅迫ではないだろうか。


『――行くぞ。』


私の返事に、何の表情も変えなかった黒王子は、さっさと一人で歩いて行ってしまう。

私もその後に続こうとしたけど、黒王子の歩く方向は私が来た方向とは別で。


「ちょっ、ちょっと待って!」

『あ?』


反射的に黒王子を呼び止めると、怪訝そうに振り返られて、また睨まれた。

あ?って…もっと他に言い方はないのか。

男らしいと言えば聞こえはいいが、黒王子の言葉遣いはただ荒いだけだ。

もっと口調を柔らかくすればいいのに。

そんな不満が喉に出かかったのをぐっと抑えて、口を開く。


「や、山下くんと河上さんはあっちにいるんじゃ…?」


控えめな声で、これ以上黒王子の機嫌を損ねないように、物腰柔らかく、笑顔まで添えて、私は黒王子が向かおうとした反対方向を指差す。

もしかして、黒王子……まさかの方向音痴とか?

意外すぎる弱点に心の中で爆笑。

そんな私に、冷たい声が届いた。


『アイツらとは、別行動。』

「え……っ?」

『いいから、来い。』


ちょっ――!?

掴まれた右手首。

抵抗の意も出せぬまま、体を引っ張られた私は、ググンッと黒王子との距離が縮まる。

一瞬黒王子と見つめ合って、ドキリと高鳴ってしまった私の鼓動を見透かしたのか、ニヤリと口角を上げた黒王子に対して、私の背中に走る冷ややかな汗。

掴まれた手首は離されないまま、私はその場を後にしたのだった。



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