【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
「朱雀という神は昔から、巫女の祈りを聞き届け、北条家に繁栄をもたらしてきた。
朱雀様に祈りを届けられるのは巫女だけ、なんだってさ。
それで、巫女さまはその資格を自ら失うようなことをしない限りは朱雀様には祟られない。祟られるのは北条家男子に限るらしい。
……だから、あんたは朱雀が屋敷の中をうろうろしていても怖がらなくていい。
もう視えるんだろ?朱雀様」
私は頷いた。
やはり彰久も見えているのだ。
「巫女さまの資格を失わない限りは祟られないって、具体的にどういうこと?
何をやらかしたら資格がなくなるの?」
「不貞があると、巫女さまの資格を失うらしいな。それで落雷を食らって死んだ巫女さまが居たらしい」
「ああ、だったら私は大丈夫ね」
彰久はそれを聞いて笑った。やっと笑ってくれた。
「あんまり情報にならなかったかな。また、いろいろ調べてみるよ。
蔵にうちの系図とかいろいろ残ってはいるんだけど、何しろ古いし読みにくいし。何かわかったら教えるよ。
もうあんたもうちの巫女さまなんだし、なっちまったもんはしょうがない。
せめて美穂が困らないように俺も協力する」
普通、そういったことに心を配るのは、婿さまである景久さんの役目だろうに、彰久が率先して私がこの家になじめるように心を砕いてくれている。
見た目はヤンキーだけど、優しい子なのだ。
彰久がもう一年早く生まれていれば、あるいは彼の母である先代巫女がもう一年長く生きていたら、私の夫になっていたのは彰久かもしれない。たぶん、そのあたりがあるから彼は私に対してある種の責任のようなものを感じているのだろう。
「彰久」
「ん?」
「ありがとうね。……でも、私のことはあんまり心配しないで。北条家の人たちは……みんないい人だし、私に良くしてくれるよ。まだ榊さんや有沢さん、それに景久さんと彰久しか知らないけれど、でもみんないい人だよ。余裕があるって言うのかな……。
お嫁に来る前はいろいろ考えて身構えたりもしたけれど、この調子なら」
「あのさ、みんながアンタを大事にするのはアンタが『巫女さま』だからだよ。素のあんた自身を大事にしているわけじゃない。
もし、素のあんたと巫女さまであるアンタが矛盾したとき、この家の人間は容赦なくあんたを責めるだろうし、 あんたはそのことで苦しむことになる」
「なにそれ……怖いこと言わないでよ」
冗談めかして笑って見せたけれど、彰久は厳しい表情を崩さなかった。
「美穂。これだけは忘れるな。
俺は巫女さまであるあんたじゃなくて、美穂そのものを心配しているんだ。だから……巫女さまとしてでなく、美穂が苦しい時は俺を頼れ」
彼は一瞬苦しそうにぎゅっと目を閉じ、そして吐き出すように言った。
「だから……絶対に景久を頼るな。
あんたが巫女であることと矛盾したとき、あいつはあんたを妨害するだろう。絶対にだ。普通の夫と同じだと思ったらあんたが苦しむことになる。
北条の男はみんなどこか酷薄なところがある。
あいつが一見優しそうに見えたとしても、本当にあんたを尊重してくれると思っていたら肩透かしを食って大怪我をすることになる」
「……そう言ってくれるのは嬉しいけれど、どうしてそんなに私に肩入れするの。
当主に逆らったって、彰久にはいいことなんか何一つ無いでしょ」