【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】


 ティーンエイジャーが親に逆らうのは自立の第一歩なのでそう珍しいことではないのかもしれないけれど、景久さんは彰久の父親ではなくあくまで叔父だ。どうしてそれほど彼を非難するのだろう。


「あんたが心配だからさ。
 十年前、俺はあんたに迷惑をかけたし、それに……あの頃、俺は悪ガキだった割には上手く立ち回るってことを知らなくて、一族の鼻つまみ者だった。そんな俺をまともに遊んでくれたのは、あんたが初めてだった。
 名流婦人として忙しかった母は、子どもをかまっている余裕はなかったし、父も引き継いだ北条グループの経営で親らしいことなんて何一つしなかった。北条家の使用人はみんなまじめで、子どもと遊んで時間を浪費するようなやつはいなかったしな。
 暇だったのはあんただけ。
 気付いていなかっただろうけど、あの頃の俺はあんたと結婚するって決めてたんだ。結婚するなら、母親みたいな面白みの無い女じゃなくて、あんたみたいに一緒に遊べる女がいい。できればサッカーの出来る女がいい。本気でそう思ってた。
 ……ガキだよな……でも、初恋だった」

 そういえば、彰久とはサッカーみたいなこともしたな。私がそれほど運動の得意なたちではなかったから適当にボールの蹴りあいをしていただけだったけれど、子どもにはそれでも十分面白かったらしい。

 あのうだるように暑い夏休み、私たちは飽きもせずによくボールを蹴った。
 出会った頃は真っ白だった彰久の肌が、日に日に黒く焼けていった。当時の私はそれを深く考えてみることはしなかったけれど、良く考えてみれば、ちょっと遊んだだけでそれだけ黒くなるような子が夏休みを迎えるまで真っ白だということは彰久は私と出会うまであまり外に出ずに籠もって過ごしていたということだったのだろう。


 彰久の初恋が私だったというのも、私を好きになった理由もちょっと衝撃だったけれど、さすがに大人なので私はその衝撃を顔に出さずに聞いていた。
過去がどうあれ、私たちはもう叔母と甥の関係なのだから。今後が気まずくならないように配慮することがなにより大事だろう。

「生まれて初めて嫁にしたいと思った女が、朱雀の巫女だなんてな……。いくらなんでもこれはできすぎだ」

「仕組まれてたってこと?まさか。私がバイトに応募したのはたまたまだよ」

「うん、そうなんだろうけどさ……なんていうか、縁っていうのかな……本当にあるのかなってちょっと思っただけ」


 彰久は額に手をかざして手の甲で前髪を顔から押しのけ、もうすっかり冬らしくなった低い空を見上げた。

「あるわけないよな……」


 どうなのだろうか。

 今までの私ならば縁なんてものを深く考えることもなかった。けれど、私は自分の目で朱雀を見てしまった。
この世界に神というものが本当に存在するのだというならば、人と人を縒(よ)りあわせるような運命のようなものもあるのかもしれない。

 十年前に私と彰久が出会ったこと、それもあるいは……。
 私は本殿で出会った白い狩衣の男を頭の中に思い描いた。


 彼の意思が働いているのかもしれない。



< 102 / 164 >

この作品をシェア

pagetop