【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】

 なんだ、あの男は。

 からん、と店の入り口のベルがなるまで私も祐輔もその颯爽とした姿に呆然としていた。

 去り際のさらりとした態度もまたどこかでテレビカメラでも回っているんじゃないかと疑いたくなるほどきまっていた。


「か……かっこええ……」

 思わずそうつぶやくと、祐輔もうなずいた。

「誰だよアレ……」

 この街では数少ないスナックの経営者である祐輔は顔が広い。この街の人のほとんどの顔を知っているといっても過言ではないのに、その祐輔があの男は知らないという。

「ここのお客じゃないの?」

 彼は肩をすくめた。

「あんな上等の客に飲ませるものなんか置いてるようにみえるか?
 さっきの客、あれに似てるな……。ほら、『腕輪物語』の……妖精の役の俳優」

「あーそんな感じ。あの人、外人じゃないのに外人っぽかったね。ハーフかなぁ。
私、あの俳優さんに一時期すっごくハマッたんだよねー映画グッズも買ったのよ」

 私の家には映画の中で使われていたクラシックな腕輪や弓のオモチャが飾られていた。まあその映画グッズも他の家財道具と一緒に彼氏が持って行ってしまったわけだが。

「ダメだ、名前が思いだせん」

 二人してその俳優の名前を思い出そうとするがでてこない。昔だったらそんなことはなかったんだけど。
 お互い年をとったな。まだそんな年でもないのに、私はふとそんなことを思った。

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