【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
アホなのは私の歴代彼氏と私の実弟だけかと思っていたが、男は総じてアホなようだ。普段どれほど頭が良くとも、一旦闘争心に火がついたらご自慢の頭脳もただの筋肉になるらしい。
私は怒りくるって自分の控え室に戻り、突然戻った私に驚いている榊さんの前で袴の紐を解いた。
ああ、普段は格好をつけまくっているくせにいざとなったらあてにならない男どものせいで、朱雀のことを後回しにしてしまうところだったわ。
おかしいのよ、女のカンがおかしいって言ってるの。
神様ってこんなのじゃない。
朱雀は神様じゃない。婚儀の朝に見た彼は百歩譲って神様だとして、今日私の首を絞めた朱雀は神様なんかじゃない。
だってそうでしょ、いつだって雷を落したり嵐を起こしたり出来る立場の神様があんな人間臭いやり方で私の首を絞めたりするかしら。あれじゃまるで人間じゃないの。
他の神様と付き合いが無いから、じゃあ神様ってどんな風に人の命を奪うのだろうかといったって答えは私の中には無いのだけれど、でもあれは神さまなんかじゃない。……人間臭すぎる。動けない人の首を自らの手で絞めるなんて人知を越えた力を持っているもののすることじゃない。少なくとも私が神様ならそんなことはしないわね。
私は白小袖の紐を引いた。絹地の柔らかい布なので、紐を解くだけで、小袖はさらりと私の足元に落ちる。
朱雀……。
二面性のある神……?なんだかそんな神話を大学の講義で聞いたことがあった気がするけれど、日本の神話じゃなかった気がする。どこだったか……。
考えをめぐらせながら下着代わりの腰巻をはずそうとしたところで私の控え室のふすまが荒々しく開かれた。
「美穂!さっきの話はどういうことだ!」
一応屏風を立ててあったけれど、その時の私は丁度ほどきかけた腰巻一枚で。
咄嗟の瞬間人間なかなか悲鳴は出ないものだ。
私は目も口も大きく開いて唖然としていることしか出来なかった。いや、先ほど私も彼らに対して同じ事をしてしまったわけだが、しかしこっちは運悪くほぼ半裸だ。
彰久は私の胸乳(むなぢ)に一瞬目をやり、その美貌をさっと赤らめ目を伏せた。
「わ、悪い、美穂」
「彰久、僕が話を聞きます、彼女は僕の妻です」
そんな彰久を押しのけるようにして控え室に入ってこようとした景久さんも、私の姿を見てしまい、うっと言葉に詰まる。
「てめぇ、見るな!」
なぜか夫である景久さんではなく彰久が景久さんを部屋の外に押し出した。
「まあまあ!彰久様、景久様、巫女さまの控え室に入るなんて!」
騒ぎに気付いた榊さんが私の肩に脱いだばかりの小袖をかけて私の肌を隠した。