【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
景久さんは顎に指を当てて小さくため息をついた。
「首を絞められた、ですか……」
私は頷きながら、ひたすらに口を動かしていた。
ティーテーブルの上には所狭しと食べ物がおかれている。スモークサーモンとレタスを飾ったブリニ(ロシア風パンケーキ)とクロテッドクリームを添えたスコーン、数種類のケーキと薔薇の香りの紅茶など、どれも見た目、香り、味のすべてが一流のものばかりだ。
最近、有沢さんは私の好みを把握したらしく、頻繁にオシャレ豪華な軽食を用意してくれる。今日は朝から身を清めるという理由で私達三人はみな絶食していたという事情もあり、中途半端な時間にもかかわらず、有沢さんは私達が帰るなりすぐに軽食と温かいお茶を出してくれた。
私は早速それに手をつけ、すでにサンドイッチは3つ目だ。
「お前、よくその状況で食えるな」
「朝から何も食べて無いもの。
あんたは殴られて顎が痛くて食べられないだけでしょ、明日ちゃんと病院に行くのよ。なんだったらついていってあげようか?」
彰久は長い足を組んで頬杖をついた。
「男が殴られたくらいで病院になんか行けるか」
何を言っているのだろうか。意味がわからない。
「朱雀が巫女さまを手にかけたなどという話は聞いたことがありません。
巫女たる資格を失った元巫女に雷を落としたことはあるようですが。それ自体も一回きりのことで偶然という可能性も否定できませんし、数百年前のことなので記録自体があやふやなものなのですよ」
景久さんの目が私を見つめた。探るような目線に私は顔を上げた。
「ちょっと……景久さん、まさか私の不貞を疑ってるとかじゃないでしょうね……?」
彼は何も答えずに肩をすくめた。
私は隣の彰久に目をやり、大きく目を見開いた。
もしかして、景久さんは私と彰久の仲を……?
「ちょっとおおおお!やめてよねっ、そりゃ私はつい二ヶ月ほど前に景久さんと知り合って、三千万のために結婚した。だからまあ、疑われることもあるだろうけど!景久さんは自分の甥をそこまで疑うの!?
彰久はまだ高校生なのよ!?そんな、ふ、不倫なんて。彰久は清い体に決まってるじゃない!!」
「……」
「あんたもなんとか言いなさいよ、あんた童貞でしょ、ねっ!」
彰久は私から目をそらした。
なんと。
違うのか。
「あ、あ、彰久あああああ……あああんた」
最近の高校生は進んでいるとは聞いていたが、まさか好きな人だけに捧げる大事なものすらすでに失っているのか……!!私のころは高校生だったらAかBどまり、ものすごく素行の悪いドヤンキーでやっとCを経験するって感じだったわよ。
「このアホがっ!高校生はBまでって昔から決まってんのよ!それなのにこんな旧家のお坊ちゃんが17歳で童貞まで失うなんて……!あのねえ、そういうのは本当に好きになった人のために大事に、」
「なあ美穂」
「なによっ」
彰久は長い睫毛に縁取られた瞳を動かし、私を見つめた。その西洋人形のような目で真剣に見つめられると、不自然なほど整いすぎた大きな目に射すくめられるようでどうしても一瞬たじろいでしまう。
「Bって何?」
「……」
恐るべしジェネーレーションギャップ……!!今時の子はBも知らないのね……!!