【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
「別に僕はあなたの寝顔をのぞいたわけではないのですが、」
私はなおも言い訳をする景久さんを冷たい目でにらんだ。
「二度と私の部屋の中のもの、特に下着には触らないでくださいね。今度私をネタにいやらしいことをしようとしたら、たとえ夫だろうと通報しますからね」
「あなたの下着には一切触っていません、ちょっと待ってください誤解があるようです」
私はさらに言い訳を重ねようと見苦しく足掻く彼を無視して自室に戻った。
そしてそのままクローゼットに入っていくと、両手一杯に靴の箱を持ち出してきた。
私の部屋の前で佇んでいた景久さんは私の運び出してきた靴の箱を見て眉根を寄せた。
「荷物を運びだしてどこに行こうというのですか。僕は先ほど、あなたを手放す気はないと言いましたよね?」
「これ、景久さんの部屋に置いてください」
「どういうことですか」
「今度私が寝ている時間に私の部屋をのぞいたら朱雀様のお世話を放棄しますね。そのかわり、あなたに私の靴を全部預けます」
「靴を、ですか?」
「ええ、出かけるなら靴がいるでしょう?でも私の靴はあなたが管理している。この家には私に靴を貸してくれるような女性はいないですし、それなら安心できるでしょう」
「……裸足で逃げることも出来ます」
「この季節に?」
ちゃんと結婚までしたというのに、未だに逃げ出すんじゃないかと疑われているのは確かにショックだった。
あの婚儀の夜に話したことは一体なんだったのだろうと情けなくなる。けれど、私達はまだ知り合って半年にもならないカップルで、恋愛結婚のカップルとはちがって信頼関係も二人で過ごした時間もごくわずかだ。
だから、危機に瀕して恐怖に駆られたとき、私がどういう行動を取るのか景久さんは全く予想ができなかった。そして私が逃げたのではないかと疑った。
私はそんな人間ではないつもりだしそう思われてしまったことは非常に情けないが、私達の信頼関係がその程度だったということなのだろう。
く……っ。悔しいが今回のみ、許そう……!と、いうか許すしか私が最低限のストレスで過ごせる方法はないのよね。私は巫女さまだしもう景久さんと結婚してしまったんだからこの家から逃げられない。
こんな育ちがよくて才能に恵まれた美貌の男がストーカーだなんて、我が愛する日本の未来は非常に暗い気がしてきた。
だがしかし、私はなんだかんだで書類上はこの男の妻なのである。身内から犯罪者をだすわけにはいかん。まだ高校生の彰久が将来結婚や就職を考えるときに景久さんの存在が障害になってもかわいそうだし、同じ事が私の実家の家族についても言える。結局通報するなどと脅しても現実にはそんなことできはしない。
彼の目の前で靴の箱を積み上げていると、さすがに彼も我に返ったようだった。
「分かりました、美穂さん。あなたを疑った僕がいけなかったのです。ですからそこまでする必要はありません」
「いーえっ、やります。ちょっと、黙って見ていないで運ぶのを手伝ってください」
私はもう一度自室に戻って部屋から靴の箱を運び出してきた。景久さんが勝手に買い込んだ靴や下駄、草履の類は私も数を把握していないほど多い。
こうなったら意地だ。私が実直で知的な大和撫子であるということを、今後身を持って知るがいいわ。
景久さんの寝室に靴の箱を山と積んで、私は一応納得した。
「さて。これで全部ですね。
じゃあ私はもう寝ます。明日もお勤めがあるので」