【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
時刻はすでに午前三時を過ぎている。朱雀様のお世話を始めるのは五時。……二時間も眠れないじゃないか。
まったく、景久さんが変な絡み方さえしなければ、私は今頃夢の中だったというのに。
ふてくされてベッドに入ろうとして私ははたと気がついた。
そういえばさっき、キッチンで朱雀にも絡まれたんだったわ。景久さんに絡まれたせいでこのことを彼に知らせるのを忘れていた。
起きてもう一度話をしようか。
しかし、すでに朱雀に絡まれた恐怖はすっかり過ぎ去っており、私はもうなんだかいろいろ面倒になってしまった。
いいや、またあとで話をすればいいわよね。
そう思った途端、よほど疲れていたのか、私は目を開けていられなくなってそのまま眠ってしまった。
背中が寒い。
私は夢うつつに温かい毛布を求めてベッドの上を移動する。手探りで温かい手触りを発見し、そこにもぐりこむ。
あたたかい……。
ほっと息をついて温かい毛布の塊に冷え切った手を滑り込ませると、また意識を失いそうになる。
しかし、目を閉じていても朝の訪れが近いことが感覚で分かる。
くそ……。朱雀様のお世話をしなきゃ。
ベッドから体を引き剥がすようにして上体を起こそうとすると、何か重い物が私の体に乗っていた。
なんだこれ。
寝ぼけ眼をこすって目を開けると、私にくっつくようにして寝ている男の姿に気がついた。私の上に乗っていたのは彼の腕のようだ。
お、おおおおおお男だ。
悲鳴をあげそうになったが、咄嗟の判断で自分の口を押さえた。
白いシーツの上に広がるやや長めの栗色の髪に抜けるような白い肌。優しい面差しがダヴィンチの描いた天使に似ているような気がする。が、これは天使などではなく、状況から考えて我が夫、景久さんではなかろうか。
彼を起こさないようにそっと彼の顔にかかっている髪をかきわけると、すっと通った見事な鼻筋に大きな瞳、そこを縁取る長いまつげが頬に濃い影を落としている。
間違いない。これは景久さんだ。なぜ彼が私のベッドにいるのか。
ストーカー行為を繰り返していた事実がバレたから開き直ったのか。気持ち悪いな……。
私は彼を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、身支度をしようとドレッシングルームに向かおうとした。
「もう五時ですか」
景久さんもまだ眠いのだろう、不満げな声だった。
「時間に余裕があるならもう少し寝ていたらどうですか」
そう言って振り返ると、ベッドの上に体を起こす景久さんが裸であることに気がついた。
「か、景久さん……」
「はい」
「アンタ、裸ですけど……?」