【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】


 彼の語ったところによると、彼は私と一緒に暮らしていた間に、彼のファンと名乗る高校生の女の子と「ちょっとしたストレス発散」したらしい。
 巧としてはそれで終わりにするつもりだったのだけれど、彼女のほうは初めてだったようで、親が出てくるなどいろいろとややこしいことになり、最終的には彼女が妊娠して結局結婚することになった。
 けれど、彼女は母子家庭の一人っ子、しかも学生の身の上なので金銭的に苦しく親の援助もない。巧のほうもバンドマンになると決めたときに親とは絶縁状態で今さら頼れる状態ではない。お金が必要だった、と。


 なんというか……呆れるほかない無計画さだけれど、そうやってなんとか私のお金で彼女が子どもを生むための住居を用意してお金を用意して……とやっていたところで彰久が現れ、巧の虎の子である私の通帳を奪い返されたようだ。
 するととたんに困ってしまうのが巧という人だ。
 私の持ち物を売り払って作ったお金もすぐになくなり、お金がないことで彼女との喧嘩も絶えず。けれどもう子どもは生まれる俺はどうしたら……。という流れで、気がついたら一度だけ私がつれてきたことのある私の実家を思い出したのだそうだ。


「美穂、お前にこんな事を頼めた義理じゃないのは分かってる。でも子供が生まれるんだ……俺の子なんだ……」


 顔をくしゃくしゃにして涙をこぼす巧の姿に、私はとにかく悲しかった。見ていられなかった。

「子ども、いつ生まれるの」

「春……って聞いてる」


 春。じゃああと少しじゃないか。一体いつから二股をしていたんだ。しかも相手がバンドのファンでしかも高校生だなんて、未成年相手に何をしているんだ。下手をしたら犯罪者になっていたかもしれない……。易(やす)きに流される性分もここまで来るともはや説教も出て来ない。

 こんな事が問題の解決にならないことはわかっているのに、気がついたら私はせっかく彰久が取り戻してくれた自分のお金から、弟夫婦に渡したのと同じだけのお金を渡していた。


「このお金は……あんたの子どもにあげるお金だから。返さなくていいけど……だけど、もう二度と私を頼らないで。
 私があんたを助けるのはこれが最後ね。誰かが助けてくれるとか、どうにかなるとかそういうこと、二度と考えないで」

 まったく情けない。
 自分でも本当に甘いと思うけれど、巧に渡す私のお金が、会ったこともない妊婦さんの子どもの命を左右すると思ったら苦しくなって、その苦しさに比べたらお金を出すのはなんでもない事のように感じられてしまった。

 まったく、私も巧と同じで苦しいことから逃げる癖があるみたいだ。ただ苦しいと思う事の種類が巧とは違うだけ。



「美穂、ありがとう……お前だけだ。お前だけが俺のことを本気で、」


 私はそんな巧の声をもう聞くまいと立ち上がった。


「うん、元気でね。
 あと、今後私の家族に関わってきたら今度こそマジで窃盗の件で警察に行くからね」


 説教は出来なかったが、最後に釘を刺すことは忘れない。さすがに家族に迷惑をかけられるのは困る。

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