【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
ソレ、ワタシノ、夫、デスヨ?
「……!!」
わああああああ!
わああああああ!!
私は叫び出しそうになる自分の口元をぎゅっと手で押さえた。
人形みたいな美女が、景久さんに、キ、キスしたあああああ!!
心臓が割れそうなほど激しく音をたてている。
こんなところのぞいちゃいけない。私はすぐにこの場を去るべきだ。
そうは思うのだけれど、私は動けなかった。彼らから目をそらすことも出来なかった。
景久さんはそっと美女の肩に触れ、彼女を優しく退けた。
「桜子、だめだ。体に障る。もうじきに手術なんだからとにかく体を大事にしなくては」
車椅子の美女は退けられたことに傷ついたのか、一瞬押し黙り、そして大きな瞳に涙を浮かべた。
「私……怖いの。手術なんてイヤ。失敗したらもう景久に会えなくなるのよ?
どうしてこんな体に生まれついてしまったの。
こんな事を思ってはいけないのはわかるけれど、私をこんな体に産んだ両親が憎くなる……」
大粒の涙が彼女の膝を覆う毛布にしみを作った。
景久さんはしゃがみこんで彼女の顔を覗き込み、そして彼女の癖のない髪をそっと指にからめて愛撫した。
その狎(な)れた手つきには深い愛情と、そして二人の中の、決して短くはないであろう彼らの歴史が感じられる。
「罪のないお父さんやお母さんを恨むなんて桜子らしくないよ。
あなたの病気はドナーさえ見つかれば必ず治る。そうすれば素晴らしい未来が開ける。桜子はそれに値する人だ。
ただ生きてさえいてくれれば僕が必ずあなたの道を開いて、あなたを守る。
だから泣かないで。
あなたが泣くと僕は自分の身を切られるよりもつらい」
「景久、景久……。私は健康な体よりも、一秒でも長くあなたに傍にいて欲しい。長く生きられなくてもいいの。あなたの腕の中で死ぬことができたらそれでいい」
涙ながらにそうかきくどく彼女の様子はあまりにも痛々しく、私も事情は分からないなりにとても同情を誘われた。
一体何の病気なのかしら。
赤の他人の私でさえそれほど心動かされる様子なのだから、景久さんはもっと辛いのだろう。彼は悲しげな顔で女性の頭をぎゅっと胸に抱きしめた。
「そんな事を言わないで。桜子が死んだら、僕だってもう生きてはいられない。ね、きっと大丈夫。怖いことなんか何もないよ」
それはどう見ても愛し合う恋人同士の姿だった。