【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
「……」
私は実家のコタツで暖を取りながらテレビを見ていた。もう小一時間ほどそこでぼうっとしているが、テレビ番組の内容など何一つ頭に入ってこなかった。
なんだか、あの礼儀正しい景久さんが、『桜子さん』相手にはあんな口調なのだということも驚きだし、二人の悲壮な様子も驚きだ。普段の景久さんは悩みがあるようなそぶりはおくびにも出さないもの。
でもホレ……。
こんな事を私が言うのはアレなんだけど、景久さんって私と結婚して……三回だけ……セッ○スもしてるのよね……。
いいのか?
いや、駄目なのかといわれるとそれはそれで駄目とも言いきれないものがある。
だって私は約束の三千万はすでに受け取って、その時点で結婚とお金の交換という契約は果たされたことになる。
でも、桜子さんはそんなこと知らないよね、あの様子じゃそんなこと耳に入れられないわよ。
うーん……。
日本の法律では一応夫婦間には貞操義務というものがある。既婚者は配偶者以外の相手とセッ○スをしてはいけませんという義務だ。
景久さんがあの美女と結婚後も性行為を持ったのならそれは貞操義務違反よね。しかしあの彼女の様子を見る限りセッ○スなんかしようものなら一気に病状が悪化しそうで怖い。私だったらとてもじゃないけど抱けないわ。してない、のか?いやそもそもそういう問題か?
私達の結婚が特殊すぎて、景久さんが私達の結婚をどう位置づけているのかさっぱり分からない。
しかし景久さんが最初から恋人をキープしつつ私と結婚したのだったらそれはさすがに契約結婚といえども腹立たしい。
だって、誰のことも好きじゃない男の嫁になるのと、他の女に夢中な男に嫁ぐのではやっぱりこっちの心構えも違ってくるじゃない。
だから、あの女性と景久さんの関係が貞操義務違反に当たるかどうかはわからないけれど、この契約結婚の説明義務違反ではあると思う。
うーーーん、こればかりは本人に聞いてみないと分からないけれど、聞きにくい話でもあるのよねえ……。
景久さんはあの彼女とおしべとめしべの関係なのかしら。
知りたい。
しかし「Hey!ヤってる?」なんて軽く聞けるキャラじゃないのよね。景久さんって。
そんな事聞こうものならものすごく冷たい目で私を見てため息の一つもついて黙秘を貫くとかやりそう……。
でも気になる。
「あああああ!一体どうすれば!!」
私は頭を抱えてコタツに突っ伏した。
「うるせーよ姉ちゃん。かよがびっくりすんだろーが」
春彦はじろりと私をにらんだ。
こいつは元来丈夫な男なので、入院もすることなく右手小指の骨折だけで帰宅を許された。治療費を払ったのは私。骨折程度の治療費も払えないなんて我が家はいったいどうなっているのかしら。
「あのさあ春彦。ウチってお金ないの?」
「うっせーな。無くはねぇよ」
「あるならどうして骨折の治療費も払えないのよ。私が嫁に出るときにおいていったお金はどうしたの」
「アレは船の修理費とかいろいろかかったんだよ」
「ちょっと!かよちゃんの出産費用はどうするの!」
「まだ先の話なんだからそれまでに稼げばいいんだよ」
「アホーーー!!」
私は「堕天子乃骸」と刺繍された愚弟の黄色いシャツの胸倉をつかんで力いっぱい揺さぶった。これもじつは気になってたのよ、お値段八万の堕天子シャツは紫色だったはずなのになぜ黄色になっているの!?まさかまたこんなくだらないものに八万も払ったの!?色違いで何色もそろえたんじゃないでしょうね!?
私は手近なスリッパを取って春彦の両頬をパンパンと音がするほど往復ビンタをした。こいつ、私が体を売った金(の一部)で堕天子シャツを何色も買いやがって!!
そのとき、玄関扉を引く音がして、制服姿の彰久が我が家の居間を覗き込んだ。
「あ、美穂。やっぱここにいたんだ。
ただいまー。あれ、春っちなんかやったの」