【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
夫婦喧嘩は犬も食わぬ。
「ふうん、高校生の美穂ってマジカワイイのな。ところで美穂の横にうつってるコイツは誰?彼氏?」
彰久は私の部屋にはいるなり、彰久は私の卒業アルバムを見つけ、私と一緒に映っている男子生徒について追求を始めた。
「ちょっと、今は景久さんの話を聞きたいんだけど」
「あんなクズのことなんか聞いてもいいことなんか何もないと思うけど?」
「それでも私は知りたいの!だって私は彼の巫女さまで、しかも嫁なんだから」
「……どうしてもって言うなら話すよ。だって俺はお前の味方だからな。美穂が景久に見切りをつけたら俺にとっては好都合だし」
彰久は話の内容に興味などないといわんばかりにアルバムを繰っていく。けれど、私はなんとなく、彼がその言葉とは裏腹にこの話を避けたがっているような気がした。
本当に聞いてしまっていいのだろうか。
戸惑いはもちろんあった。けれど、昼間見たあの二人の悲壮な様子を他人として流してしまうことがどうしてもできなかった。
ショックを受けるのが怖いからといって、気付いたほころびをそのままにしておいては、いずれそのほころびは大きな裂け目となって手の施しようがなくなる。
それは私が社会に出て働き始めたころにまず最初に覚えた仕事のルールだ。
どんなことがあっても大丈夫。私は事実を受け止めてきちんと対処できる。
気まぐれで読んだ自己啓発本に書かれていた文句を胸の中で繰り返し、私は話を切り出した。
「彰久、……桜子さんって人について、教えて欲しいの」
「俺はガキだったからあまり詳しくないんだけど、桜子って人は親父の親友の娘。景久から見れば兄の友人の娘って関係になるな。
景久は祖父の後妻の子だから俺の親父とは結構年が離れてて、桜子さんとは丁度同じ年に生まれたんだ」
「そうなのっ!?」
本題とは全く関係のないことだが知らなかった。そうか……先代当主孝昌さんと景久さんは母親が違うのか。
彰久のお母さんである先代巫女さまもまだ40代で亡くなったというし、巫女さまって短命なのね。
「話、続けていい?
で、桜子さんと景久は幼稚園から同じ学年で幼馴染ってヤツね。うちの家にもよく出入りしてたよ。
桜子さんは、ええと、『心筋症』だったかな……。生まれつき心臓が悪くて二十歳までは生きられないって言われていたんだけど、入退院を繰り返しながら学校に通っていて……、景久はそんな彼女を悪ガキから庇ったり遅れがちな勉強を教えたりして……そのうちお互いに意識するようになって二人は付き合い始めたんだ」
なるほど、幼馴染から恋人へっていう典型的なパターンね。そのコースでいったらお互いの親たちだって二人は当然結婚するものと思っているでしょうに、どういう運命のいたずらか、景久さんは今、私と結婚している。
どうしてそんなことになったのかしら。
恋人よりも実家の朱雀様信仰を取って巫女さまである私と結婚なんてちょっと不自然よね。景久さんはロンドン時代に企業買収の世界に踏み込んでバリバリ仕事をしていたらしいし、稼ごうと思ったらこんな北条グループなんて田舎企業の経営者に納まるよりも企業買収で上手いことやるほうがはるかにしがらみも少なく稼ぐことが出来ると思うのだが。
「景久が留学している間も、桜子さんはあいつに手紙を書いたり、夏休みにはロンドンを訪ねたりしていたみたいだ。二人の交際は順調で、二人の間で結婚の約束も出来ていたらしいよ。
でも、先代の巫女であった俺の母親が急死して、巫女さまを娶って当主を継ぐべき俺はまだ17歳で結婚できない。
そこで急遽、景久が帰ってきて親父のあとを継ぐことになった。
たぶん、桜子さんと景久は一旦別れたんだろうけど、すぐに今日美穂が見たようなことになったってワケ。
まあ、最低だよな。
だから言ったろ?あいつは優しそうに見えるけれど、本当は優しくなんかないし、フェアな男でもないってさ」