【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
朱雀様……。こんなところにも。
朱雀様に海の安全を祈願して、効果があるのだろうか。一応朱雀様も神様なので祈る意味がないわけではないだろうけれど、こういうところでは普通、海に関係のある神様を祀るものなのに。
珍しいな。ちょっと中をのぞいちゃいけないかしら。ドラマなんかだとこういう場面で何か朱雀様とミサキ村の関わりを示すものが見つかったりするものなのだが。
さすがにお社の中に入り込むのは罰当たりな気がして、なかなかそこに足を踏み入れることが出来なかったけれど、でも別に荒らそうってんじゃないし、私は一応巫女なんだから入るくらいかまわないだろう。北条家の本殿には毎日入ってご神体を磨いたりお水を替えたりしている身なのだ。私にはその資格がある、と思いなおした。
「朱雀様、悪いけど入るね!」
一応大きな声で断ってから、私はお社の入り口に手をかけた。
その時、誰かが私の手をつかんだ。
「!!」
あまりの驚きに全身の肌が粟立った。
怖い。
怖いが、確かめずにはいられない。私は私の手をつかんでいる人物のほうを振り返った。
そこにいたのは朱雀様だった。
すらりとしたその体躯、白い狩衣、静かな面差しとその半分を覆う痛々しい何かの傷跡。
朱雀様は私と目が合うと、ゆっくりと首を横に振った。
「い……ね」
男のものとも女のものともはっきりとは判らない声で、朱雀様は確かにそう言った。
イネ?
一体どういう意味だろうか。
「い……ね」
朱雀様はもう一度首を横にふり、そう繰り返した。
私は彼が突然現れたことですっかり怖ろしくなってしまい、お社の扉にかけた手を離した。
すると、朱雀様はすう、とお社の中に吸い込まれるようにして消えていってしまった。
入ってはいけない、そういうこと……?
恐怖のあまり、足が震えて力が入らない。
私はへたへたとその場に座り込んでしまった。