【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
てまりうた。
「イネって言ったのよ!イネってなんのよおおおお怖いっ!!」
ぐずぐずと泣きながらそう叫んだ私に、景久さんは顔をあげた。
前回の口論以降、なんとなく景久さんを避けていた私だが、帰宅して家に居たのが丁度景久さんだけだったために、彼に今日あったことをまくしたてざるをえなかった。
事情を聞いた彼は神経質そうな眉根を寄せて答えた。
「イネ、というのはおそらく古語の『去(い)ね』ではないでしょうか。『去ね』とは今の言葉で言う死ね、とかどこかに行けという意味ですね。
それはともかく、あなたは……。つい先ごろ不審者に殺されそうになったというのに、一人で何をやっているのですか。あなたがそうやって誰にも相談せずに行動すると、僕はあなたを守りたくても守れません」
どこかに行けはともかく死ねとか怖すぎるだろ。朱雀って怖い!!
「だって!!私は私なりに自分のルーツを知りたいし、巫女さまってなんなのかを理解したかったのよ!私は悪くない!」
興奮して泣き叫ぶ私に、景久さんはボックスティッシュを差し出した。
「気持ちは理解できますが、思い付きで危険な行動をとってはいけません」
「そりゃ……正論ですけどっ、私は一刻も早く巫女さまと朱雀の関係について知りたかったんです」
「なぜ?何も今日でなくとも、せめて誰かを伴って出直せばよかったのではありませんか」
「それは……」
私は口ごもった。
結婚したばかりで恐縮だけれど、私は離婚したいのだ。出来れば一日も早く。
景久さんのことは嫌いではないけれど、やっぱりここは私の家じゃないし、巫女として生涯を終える気もない。 景久さんと桜子さんの間を引き裂くお邪魔虫的な立ち位置もなんかイヤ。
ここには愛がない。希望もない。まるで牢獄のようだ。
まるで長い懲役を受けているようじゃないか。代々の巫女さまはもちろん、北条家の人々全員が何かの罪を償っているみたい。
離婚したい。
私のために、そして景久さんのために。
そのためには朱雀がなぜこの北条家に固執するのかを知りたい。そして、できることなら自分と北条家を朱雀の祟りから開放したい。
そう思って何か皆を開放する手がかりになるようなものを見つけるためにミサキ村に突撃したのだ。
景久さんはきっと私がこんな気持ちでいることは知らないのだろう。
私は私の振る舞いに戸惑っている景久さんを見つめた。
立派だけれど、かわいそうな人だ。
「景久さん、言いにくかったから黙っていましたけど、私……この間、病院であなたを見ました」
景久さんは眉を上げて私を一瞥した。けれど、驚いた様子はない。
「驚かないんですか」
彼はうつむいて小さく笑った。
「……ええ、なんとなくそんな気はしていました。あなたは隠し事のできる性格ではないようですね」
「桜子さんと景久さんのこと、少し聞いてもいいですか」
彼は頷いた。
「あなたはあなたの人生を犠牲にして、なんの縁もゆかりもない桜子を救ってくれました。あなたはあなたの結婚が何のために行われたのか、知る権利があります」
なるほど。
彰久の推測は正しかったみたいだ。
景久さんは巫女さまの婿となる代わりに……桜子さんの命を願ったのだ。