【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
私はこの男とはほぼ初対面で、交際もしていないからまず候補からはずすとして、この家にいる独身女性は私を除けば二人。母とかよちゃんである。
下手をすれば私よりも若そうなこの男が母と交際しているとは考えにくい。と、なると……。
かよ……ちゃん……?
私は口中に溜まった唾をごくりと飲み下した。
かよちゃんは化粧の濃さで普段こそはっきりとは分からないけれど、じつは愚弟にはもったいないほどかわいい子だ。なにより彼女は17歳。とにかく若い。
17歳のまあまあ可愛い女の子とこの二十代半ばと思しき上品な男なら……、悔しいが弟とかよちゃんのカップルよりも見栄えはいい。ジャージではなくてこぎれいなワンピースを着たかよちゃんとならばお似合いといってもいいだろう。
そうか、この男が昨夜私に呑み代を奢ってくれたのは、今日の為の賄賂的なアレだったのね……。
でも、でも。
そりゃかよちゃんはわりと可愛い顔をしているけども、この子のおなかにはもう赤ちゃんがいるのよ?
春彦はそりゃ、目の前の男ほど上等じゃないし、かよちゃんも金持ちそうなこのイケメンのところに嫁いだほうがおそらく幸せだろうけれど。
でもッ、春彦は馬鹿で、高校すら卒業できなかったけどでもっ!もう赤ちゃんがいるのよ、小さな命のためにもあんたは身を引いて頂戴!
あああ私はなんて人から奢ってもらったりしたのかしら、この人は春彦の恋敵じゃないの!
「お断りします」
私は腕組みをして難しい顔を作った。我が家には父親はいないので、ここは私がしっかりしなければいけない。春彦はまさかの恋敵登場でとても冷静にはなれないだろう。
しかし男ははじめから断られることは予想していたのか、私の態度に取り乱すこともなく落ち着いている。
「いきなりこんなお話をしては、そちらがそうお答えになるのも無理はないと思います。
ですが、これは僕の家と僕自身の強い希望あってのことです。
何かそちらのご要望がありましたらどんなことでも対応いたしますので、どうかもう一度ご検討ください」
んまあ、かよちゃんのこと、そんなに好きなの!?
かよちゃんとこの男は一体どんな関係なのかしら……。
男のほうは若いとはいえ明らかに大人の雰囲気だけれど、かよちゃんはどう見たって未成年だ。アレがああなってこうなるようなことをしたりしているんじゃないわよね?それって法的に問題のないことなのかしら。
……あ、今気付いたけれど、それを言うなら当年とって26歳の我が愚弟も年齢差については同じだわ。愚弟はあからさまに大人げのない格好なので、姉としてはつい彼がまだ十代であるかのように扱ってしまうが、実は立派な大人の男なのである。
私は一瞬非常に下種なことを勘繰ってしまい、そのやましさを振り払うためにことさらに強い態度に出た。