【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
試飲販売は非常にシビアな仕事である。売る人は簡単に商品を売ってしまうが、そうでない人はまったく売らない。
私は恨みがましい目で北条景久の周りに群がる女性客を睨んだ。
なによなによなによ、そりゃこんな品のいいイケメンにお酒を注いでもらう機会なんてそうは無いわよ?でもだからってそんなきゃあきゃあいいながら集まることないじゃないのよ、携帯でママ友を呼ばなくてもいいじゃないのよ、私と扱いが違いすぎるわよ。
私のほうが愛想もよかったし、アンタらのしょうもない雑談にも愛想よく応じていたじゃないの。それなのにこんな気取った男のほうがいいわけ?なんなのよ、私の何がいけないってのよ。
北条景久は唇を噛みながら客をにらんでいる私に耳打ちした。
「早く次を注いでください。あなたの仕事でしょう」
その声は丁寧だったが冷たい。
く………っ!腹の立つ!どうせミニスカに耐えて必死で売っても一時間で数本も売れない私を内心笑っているんでしょ!
「残念、もう売切れてしまいました。またのお越しを」
勝ち誇ったような笑みを浮かべて、彼がお客にそう宣言したのは彼が試飲販売をはじめて30分後のことだった。
「も、もう売ったの?」
「ええ。さあ、行きましょうか。いい加減あなたの足も限界でしょう」
忙しく動いていたので自分では意識していなかったけれど、私の足はもうすでに小刻みに震えている。目に見えるわけではないがハイヒールの中はマメがつぶれている。
彼は私の足のために手伝ってくれたのだ。
ちょっと手伝っただけの彼にビールをすべて売り切られてしまったという事実に悔しい気持ちはもちろんあったけれど、彼は彼なりの思いやりで私を手伝ってくれたのだという感謝の気持ちのほうが大きかった。
「……手伝ってくれて、ありがとう……」
彼は初めて会ったときと同じ、穏やかで真意の見えない笑みを浮かべた。
「どういたしまして。さあ食事に行きましょう」