【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
「はっきり言って下さってかまいません。あなたが僕をおかしな男だと思っていることについては腹も立ちませんよ。
僕もかつては朱雀様にとらわれてまともな感覚を失っている一族の人間に対して、今のあなたと同じことを思っていました。だからこそ長い歴史と信仰に縛られた家から逃れるために、あえてロンドンに留学までしました」
なるほど。それがいつしかあちら側に取り込まれてしまった、と。
「ですが、僕は僕個人の事情でいったんは捨てたこの土地に戻ってきました。
そして僕は……かつて自分が朱雀信仰に反発した身として、僕に求婚されたあなたがどんな反応を示すかよくわかっていました。
あなたの反応が手に取るように分かったからこそ、僕は無策でこの求婚に挑むような愚かなことはしません」
「ど、どういうことですか」
突然景久さんの瞳に好戦的な光が宿ったような気がして、私は一歩後退した。
彼はうっすらと微笑んで肩をすくめた。
「北条家がこの地域一体の領主であった昔ならばいざ知らず、今の世の中では誰もあなたに僕との結婚を強要することはできませんからね。
あなたと交渉する上で、あなたのことを知る必要がありますから、少しあなたのことを調べさせていただきました」
「どういうことですか……」
「調べたといっても、あなたのご近所に住む人なら誰でも知っているようなことを調べただけです。
そして、調べた結果、失礼ながら言わせていただきますが、あなたの家もあなた個人も、……今、少しお金に困っておられるようですね」
その言葉に私は胸を強くつかれたような気がした。
北条景久が私との話し合いにこの料亭の離れを選んだその理由は北条家の内情や朱雀様信仰のことよりも多分、この話が外に漏れるのをはばかったためだったのだろう。
「結納金として、あなたの家に三千万円お支払いします。
もちろん当家はいろいろとしきたりにうるさい家ですので、北条家に輿入れする際の支度はこちらでさせていただきます。
ですから、三千万円の使いみちは全額あなたのご自由に」