【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
いらない子の決断。
三千万。
私は頭を冷やしたいからと彼に送ってもらうことを拒否し、商店街をひとりで歩いていた。
三千万。
その額の三分の一、すなわち一千万あれば弟の船の修理代は賄えるし、それどころか我が家のプチリフォームだってできる。母さんだって怪我が治るまでゆっくり療養できるだろうし、かよちゃんのおなかにいる赤ちゃんのためにベビー用品をそろえることだって出来る。
それなのに北条景久は私との結婚のためにその三倍の三千万を払う、と言ったのだ。
三千万よ、信じられない!
たぶん、北条家にとって、時期当主の結婚のためならそのくらい払うのはわけないことだろう。三千万円で朱雀様の巫女さまを嫁に迎えることができるなら安いもの……。はっきりとそう言われたわけではないけれど、そんな彼ら一族の声がどこからか聞こえてくるかのようだった。
三千万か。
仕事をしていたころはもっと大きなお金を扱ったこともある。けれど自分ひとりの裁量でそれを用立てようと思えば普通の人は誰だって苦しい。
もちろんコツコツ働けば用意できないお金では無いんだろうけど……。
私は仕事をやめてから初めて仕事をやめたことを後悔した。彼氏に退職金の振り込まれた通帳を預けたことを後悔した。
会社員をやっていたら私は今頃こんな馬鹿げた結婚話をまともに聞くことすらなかっただろう。
彼氏をなんとか就職させようなんて考えなければ、貯金を吐き出して弟の船を直し、気持ちよく甥か姪の生まれてくるのを待っていることができただろう。
でも私は仕事よりも愛に生きようと思った。自営業はそりゃはじめのうちは苦しいだろう、年収だってたぶん減るだろう。でも愛さえあればなんとか乗り越えてゆけると思った。
でも、その愛がなかった。私にはあったのよ、あふれるほどあったの。でも向こうにはなかった。あるように見えて、それはどこにもなかったのだ。そこを見誤ったがために私は窮地に追い込まれている。
お金で宗教狂いの変な男の妻になるのか。
朱雀様信仰って変な儀式はなかったような気がするけど、私が知らないだけでいけにえを捧げたり夜な夜ないやらしげな儀式をしたりするんだろうか。
あの変な男は妻を殴ったり蹴ったり酒を飲んで絡んだりするだろうか。
男を産めとか、しきたりがどうこうとかそういう嫁イビリはあるんだろうか。
考えれば考えるほどいやな考えばかりが浮かんできて恐ろしくなってくる。