【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
まるでおとぎばなしの世界に紛れ込んだかのような自分のこれからの人生を思うと、つい頭がぼうっとなってしまう。
私は隣を歩く景久さんの横顔に目をやった。
品よく通った鼻筋がまるで彫刻のようだ。やや神経質そうな目元がとっつきにくそうだが、柔らかい印象の口元がそれを和らげている。
要するにイケメンである。好みは人それぞれだけれど、彼ならば女子十人中八人は彼を評してイケメンであると答えるのではないだろうか。
改めて見ると非モテ系ブス歴30年の私にこれほど美貌の夫はもったいないわ。まるで王子様みたいじゃないの。
見た目は王子様かもしれないが、私の夫となる男はこの時代に朱雀様を本気で信仰していて、しかもイケメンとはいえ私のタイプの男とはちょっと違う。
それなのに私の頭は都合の悪い情報をすっかりなかったことにしてすっかり私を舞い上がらせている。マリッジブルーはよくきくけれど、マリッジハイっていうのも存在するらしい。
「緊張しますか。
大丈夫ですよ。少し古いですがただの家です」
景久さんは、黙りこんだまま動けない私に優しく微笑みかけた。
「は、はい」
小さく答えた私の声は裏返っていた。
ここで爆笑してくれたらせめて私の緊張はほぐれたかもしれない。けれど景久さんは生まれついての貴公子。女性を笑いの対象にするような真似はしない。私の手をとるとそっと自分の腕に私の手をかけさせ、ゆっくりと歩き出した。
ここは私の家になるのだから、このくらいでビビッてちゃダメ。
私はきゅっと口を閉じると彼に導かれるまま屋敷に入っていった。