【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
「あなたのその率直な物言いは、ときに不愉快になることもありますが、しかし一緒に暮らしていく上で非常に僕の助けになる特質になるだろうと高く評価しているんですよ。
黙って不満をためるタイプの人よりも、はっきりと口に出してくれる人のほうが相互理解が早い。
恋愛過程を経ずに結婚する僕たちのようなカップルの場合、あなたのその正直な性質はパートナーとして大変理想的な性質だといえるでしょう」
そんな観点から理想的な妻と評価されても少しも嬉しくない。
結婚の話をしているというのに、景久さんはまるでビジネスの話をしているみたいだ。私たちは結婚するのに。
いや……、この人にとっては結婚も北条家の当主になるために必要な条件の一つに過ぎない、つまりはビジネスの延長に過ぎないのだろうな。
よくここまで自分自身を押し殺して生きられるものだ。私には絶対無理。これが旧家に育った人というものなのだろうか。
その時、携帯の呼び出し音が聞こえた。
景久さんはジャケットの胸ポケットから携帯を取り出して私に軽く頭を下げた。
「失礼、仕事です」
私は彼が部屋から出て行くのを見送った。
柔和で、女性のようによく気のつく優しい景久さん。
触れるだけで割れてしまいそうなティーカップ。
薫り高い紅茶。
この豪奢な部屋。
何もかも少女の憧れの世界だ。
しかし、私は少女じゃない。三十過ぎで、社会経験もそれなりに積んだ年増だ。
憧れの世界が自分に似合うかに合わないかということは十分に自分で判断できる年齢だ。
私は多分この家の嫁にはふさわしくないと思う。そりゃ……朱雀様の巫女さまという立場だけはこの家の嫁に相応しいのかもしれないけど、それだけじゃ私はもちろんだけれど景久さんも不幸だ。
格好をつけて弟夫婦と母のために、この家に嫁に来ようなどと考えたけど、それってヒロイン気取りのバカな考えだったのかもしれない。
その時、部屋のドアが軽い音を立てて開いた。
私は反射的に振り返った。
「早かったですね、景久さん、」
しかし、そこにいたのは景久さんではなかった。
「ああ、あいつはまだ時間がかかるよ」
そう答えたのは景久さんの優しく品のよい声ではなかった。華やかで、少し甘い声だ。