【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】

 まだママが恋しいような年齢の子どもを親戚とはいえよそに預けるってひどい親だな。

 私の義憤が顔に出ていたのだろう、彰久はつけたした。


「この屋敷は朱雀様の本殿とか、歴史的に貴重な美術品もあるから。
 北条家当主の親父としちゃ、俺みたいなのは置いておけなかったんだろ。
 俺が六歳のときに、ここの奥の敷地にある朱雀様の本殿に打ち上げ花火を打ち込んで半焼させてから、すぐに分家に預けられたんだ。
 朱雀様の本殿は歴史的に価値の高い建物で、千年前の技法そのままに建てられたものだから、さすがにやばかったみたい」

 彼は甘い感じのする口元にいたずらっぽい笑みを浮かべた。その表情をみる限り、あまり反省しているとは思えない。

「……」

 打ち上げ花火で歴史的建造物を半焼させるって。
 これ、大人がやらかしたのなら相当まずいことになっているだろう。下手をしたら死人が出ていたかもしれないわけで。


 建物を半焼させる子どもって相当の悪ガキじゃないのか?いや、子どもだからこそ善悪の判断が甘く、しゃれにならないいたずらをやらかしてしまうものなのかもしれないな。大人がそんなことをやったら確実に犯罪者になる。

 彰久が当時の私を花火に誘っていたらと思うとぞっとする。
 彼は私の表情から私の考えていることを察したのだろう。明るく微笑んだ。


「あんたも、俺のせいでクビになって、あの時は悪かったな」

 私は当時を思い出してふっと笑いを漏らした。

「ああ、ペットボトル爆弾?」
「そう、それ。あんたがやめてから、俺はだいぶ反省したんだ。まじめになったよ。
 俺が羽目をはずせば俺が叱られるだけじゃすまないんだってことがわかったからさ」


 私はそう言って笑う彼をつくづくと眺めた。しかし、私の口元から次第に笑いが消えていく。

 ……まじめになった、……と本人は言うが、しかしそれは本当なのだろうか。
 私は彰久の姿を頭のてっぺんからつま先までつくづくと眺めた。

 彰久の制服はこのあたりでは有名な中高一貫の名門男子校のものだが、あの高校の生徒で腰までズボンをずり下げてはいている子は一人も見たことがないし、腰からチェーンをぶら下げいている子も見たことがない。校則も私立名門ということで相当に厳しかったはずだが、目の前の彰久ははっきりと分かるほど髪を明るく染めている。


 人は見た目じゃないとはわかっているけれど、でも人は往々にして人は服装で自己主張をするものだ。


「あんたグレてない?」

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