【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
私がそう言った時、彼はたまりかねたように声をあげて笑い出した。
「グレるって……何だよその言い方。ダサッ。
今の俺は特別悪いわけじゃないさ。やることはちゃんとやってるし、授業だってちゃんと計算してサボってる」
ちゃんと計算してサボってるって。
世間ではそれをグレているっていうんだよ!
私は頭を抱えた。
ああ、彰久がこんなやつに育ってしまったのはやはりペットボトル爆弾にも少しだが責任はあると思う。
あれを人の家に打ち込むのは犯罪だが、しかし安全に気をつけて遊ぶならすっごく面白いものねえ。大人が狼狽する規模のいたずらって本当に楽しいのよね、後の始末を考えなくていい子どもの立場なら尚更。
きっとそういう大人を困らせる面白さが癖になったのだ。
子どもがいたずらをするのはかわいいが、しかし大人と変わらないほど背が伸びた高校生がまだ人を困らせているのはいただけない。
私は彰久がペットボトル爆弾を持ち出してきたときに全力で止めるべきだったのだ。
「彰久……あんた……」
言葉もなく額に手を当てていると、彼はしばらく笑っていたけれど、やがてその笑いをおさめてからそっと私の耳元で囁いた。
「景久との結婚はやめたほうがいいよ」
小さな囁きに私ははっと顔を上げた。
そうだ、見知った顔に出会ってすっかり忘れていたけれど、私は今景久さんの……結婚相手としてこの屋敷に居るのだ。
「彰久、」
彼は先ほどまで景久さんが座っていた椅子に腰掛けた。
「やめたほうがいい」
今度ははっきりとそう言った。その華やかな双眸には冗談を言っている気配は微塵も無い。真剣そのものだ。
「結婚のこと、知ってるのよね」
「そりゃ、叔父の結婚相手くらいは知ってるさ。俺の父親は今の北条家当主、北条孝昌だ」
「えっ、」
思わず声をあげてしまったが、よく考えれば、彰久は小さい頃こそ分家に預けられていたけれど、実際はこの北条家本家の子、つまり景久さんの近い身内であるのは明らかだ。
彼の父親が北条孝昌だとするならば、彰久は景久さんの兄の子、ということになる。
つまり……彰久は……えっと。普通に考えたら当主の長男なんだから、今のように孝昌さんが引退した場合、普通は長男がである彼が次の当主になる立場、ということになるんだよね。
でも、なぜか今は景久さんが北条家の次期当主として私の前に現れた。
「……あ、そっか……あ、いや……」
私は彰久の様子をつくづくと眺めた。