【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】


 私は突然そんな話をされて戸惑った。もちろんこんな結婚で幸せになれるなんて考えていない。明らかにこの結婚はわけありだし、私と景久さんのつりあわなさを見れば誰だって私たちの間に何らかの取引があったことを察するだろう。

 でもいまさら逃げるといってもどこへ。
 景久さんもすでに私に釘をさしていた。彼はたった一人の『すぐに結婚できる年齢の巫女さま』である私をすんなりと手放す気はない。

 まだ私はこの家に正式に嫁としておさまったわけではないけれど、実家は北条家の影響の強い地域にあるし、母のパート先も北条のグループ企業の一つだ。弟は漁師だから直接北条家にかかわりは無いけれど、でも漁港が魚を卸している先はほとんど北条関連のスーパーやレストランなどだ。
 実家ごと逃げる?そんな非現実的な。かよちゃんは妊娠しているんだ。やたらに動かすことはできない。
 結婚を取りやめるとしても、できれば話し合いで平和的解決をしなきゃ、家族が崩壊する。


 彰久は少し深刻な顔で話を続けた。

「美穂、こんな事は信じられないかもしれないけれど……北条の家が何度も時代の波を乗り越え、今でも続いているのは……すべて朱雀の力だ。
 でも朱雀はこの家を豊かにする一方で……もう何百年もこの家の男に祟(たた)っている。あんたが男の子を生んだらきっとその子も朱雀様に祟られる。
 だから、助けてやる。三千万であんたの生む子どもとあんたの人生を台無しにするな」

 また、朱雀だ。

 私は彰久の真剣なまなざしを呆然と見つめかえした。
 料亭で景久さんの言っていたことが脳裏に蘇る。


「僕も少し前まで朱雀様信仰など馬鹿馬鹿しいと思っていましたからね」彼は確かにそう言っていた。


 景久さんはなぜ、最近になって朱雀様を信じるようになったのだろう。


 この家の人はみんな朱雀信仰が深いのだろうか。いや、それだけでなく彰久にいたっては祟りとまで言い出して、朱雀様をまるで怖れてでもいるような口ぶりだ……。朱雀様を信仰しているというよりもむしろ……怖れている……?

 なぜ彼らがこんなに朱雀様を怖れるのか、私にはわけが分からなかった。
 代々の信仰だから引き継いでいるだけという様子ではない。景久さんは朱雀様のために結婚まで決めてしまっだ。どうしても見ている側としてはそこまでするか?という疑問が付きまとう。
< 48 / 164 >

この作品をシェア

pagetop