【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】


「ちょっと母さん、別所の田村さんってもうおじいさんじゃないのさ!どうして私が20歳近くも年上の男と結婚するのよ、おかしいでしょ!」

 亡き父が生きていたら、丁度田村さんの長男とかなり近い年齢だったような気がする。
 大体田村さんの意思はどうなんだよ。嫁(い)き遅れはみんな田村さんに処理してもらおうみたいな発想はあちらさんにも失礼だと思うのだが。


「何言ってるの!26を過ぎたら女なんて30でも40でも同じ嫁き遅れなの!」

「そんなこと言ったら田村さんは50近いでしょ!30の私が行き遅れなら田村さんはなんなのよ!私はまだ30だもん、田村さんよりはまだ希望はあるわ」

「男と女は違うでしょ!この子は東京で変な学校に行ってすっかり生意気になって!」

「男と女のどこが違うのよ!納得いかないわ、分かるように説明してよ!
 大体私の言っていた大学は変な学校じゃない!」

 私と母はもう10年近く前からこの話になるととにかく揉める。

 母は早く嫁に行くことこそよい結婚ができる第一条件だと言い張るけれど、私は今のこの時代にその考え方はナンセンスだと思っているし、そういう視点で評価されてぜひ嫁にといわれても全然嬉しくない。
 人間、嫁にいったからといって加齢がそこでストップするわけではない。若さを武器に嫁にいったとしても、嫁にいった先で年を取ったらあっさり返品されそうだ。

 そこへバイトが終わった春彦が帰ってきた。

「ああもう、母ちゃんも姉ちゃんもやめろよ、何年その話で揉めるんだよ」

 久しぶりに会う弟はもう童顔のくりくり坊主ではなく、ちゃんと五分刈り程度には髪を生やして、一部にそりこみを入れている。二十代半ばの男の子の髪型としては少々、いやかなりいかつい気がするが、この田舎町では未だにアイパーと角刈りが一番人気の髪型なのでわが弟はまだオシャレな方といえる。

 でもそんなことよりも、わが愚弟の身につけている紫のパイソン柄ベースボールシャツの方が気になる。しかも上だけならまだしも下のパンツまで同じ柄のセットアップってどういうことよ?


「春彦、アンタその服どこで買ったの」

 彼は服装を指摘され、眉を剃り込んだいかつい顔を緩めた。

「ああ、これ?通販だよ。八万もしたんだぜ」



 
 馬鹿だ……!馬鹿がいる……!
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