【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】


 それにしても。
 嘘をついて人の実家に上がりこむなんていたずらにしても悪質だわ。
 
 
「ちょっと彰久っ、どうして人の家に嘘までついてあがりこんだのよ!ことと次第によったら景久さんにクレームを入れて今すぐ回収してもらうわよ!」

 怒鳴りながら居間にはいっていくと、母にお盆で頭を叩かれた。

「あんた彰久くんになんて口の利きかたなの、そんなんだからいつまでたってもお嫁にいけないのよ!
 ご近所のあきちゃんもゆいちゃんも25になる前にお嫁にいったのにあんたときたらお父さんが何も言わないからって好き放題して」


 また始まった。母はこれが始まると長いのだ。

「あ、美穂。これあげる。お土産」

 彼は母の小言に萎縮する様子も無い。こたつのうえに『東京アボカド』とジェニファースペードの紙袋を出して無造作に置いた。

「と、東京アボガド?ジェニファースペード?東京に行ってたの?アンタ学校は?」

「学校は休み」



 休み……。

 それを聞いて私は顔色を変えた。
 そういえば景久さんが数日前に「彰久が補導されました」と言っていたような気がする。その時は冗談として話を聞き流したけれど、もしかしてあれは冗談でもなんでもなく真実だったのだろうか。


「も、もしかして」

「ん。謹慎食らったんでちょっと東京に行ってた」

 まるで天気の話しでもするかのように彼はさらりとそう答えた。

「ええええええええアンタばかじゃないのっ」

 開いた口がふさがらない。


「謹慎って普通は自宅で謹慎するもんでしょうよ、それがアンタ」

「基本的には自宅に居たよ。東京に親父名義のマンションがいくつかあるんだ」

「……」

「今回の謹慎は短いから国内なんだ。ジェニファースペードの新作、こっちじゃ売って無いからついでに買ってきた」

「えええええええ」


 私は紙袋にはいっているシックな茶色の紙箱をそっと押し上げ、中で艶を放っている深い緑色のハイヒールを見て絶句した。
 これ……欲しかったけど……欲しかったけど無職だし田舎じゃ手にはいらないしで諦めていたヤツ……!12万もするのよこれ!!


「彰久っ、アンタ気持ちは嬉しいけどこんな高いものを高校生のお小遣いでっ!」

「ん?ジェニファースペードで12万だったら妥当かむしろお買い得だろ。
 でさ、本題はそっちじゃないんだ。ちょっと二人きりで話せない?」

「二人きりって」


 私はジェニファースペードの紙袋に興味津々の母を横目で見た。
 怪我人の母に婚家がらみの変な話は聞かせたくないわね。

 私は一瞬迷ったが結局二階の自室に彰久を案内した。


「うわー狭いねー」


 人の部屋にはいって第一声がそれか。


「へえ、こういう男がタイプなんだ」


 ベッドの上に貼った古いアイドルのポスターを見つめて彼は笑う。二人きりで話したいと言ったわりに緊張感は無い。


「で、話ってなに?」


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