【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
同棲、じゃなかった同居。
その一週間後、私は北条の家に入った。
「わーすっごい……」
私は用意された自分の部屋に驚いていた。
海外のインテリア雑誌に出てきそうな素敵な部屋。大きな天蓋つきのベッドはお姫様みたい。さまざまな果物をモチーフにしたシャンデリアがきらきらと輝いて用意された調度類を照らしている。
私は自身の持ち込んだカラーボックスを見つめた。
これ……ホームセンターで1500円だったヤツだ。
使い勝手がいいからと実家から持ってきたが、いざこの家に持ち込んでみるとアイドルのシールを貼ってはがしたあとが痛々しい。
「これ、部屋に置いてもいいですか」
景久さんはその貧乏臭いカラーボックスをちらと見て答えた。
「収納は十分足りていると思いますが、必要でしたらここの家具類は増やすも減らすもあなたの自由にして下さってかまいません。あなたの部屋ですから」
「どうも……」
多分これは捨てることになるだろうな……。わざわざ100均のプラスチックかごを接着して自分が使いやすいようにカスタムしたのだが……この部屋には壊滅的に合わない。
「僕の部屋はリビングの向こう側ですので何か用がありましたら声を掛けてください」
景久さんはそう言って私の部屋を出て行った。
先ほど案内してもらったが、景久さんの部屋は私の部屋の隣に夫婦専用のリビングがあり、そのさらに向こうがわに彼の部屋へと続くドアがある。つまり私たちはリビングは共用になるが、その先の寝室は一人につき一つの部屋を使っていいようだ。
夫婦ということで寝室が一緒なのは仕方が無いとして諦めていたが、さすがにベッドは別にしたいなと考えていた私はその間取りを見てほっとした。
これなら寝室は別だ。ただのシェアハウスである。
書類上結婚していることにはなるだろうが実際の生活の距離感がこれなら楽よね。さすが契約結婚。
私はとりあえずこの壊滅的に部屋に合わないカラーボックスを目に付かないウォークインクローゼットに入れようとして動きを止めた。
四畳半ほどの私のクローゼットはまだ私の衣類は何一つ運び込んでいないのに服だらけ。ハンガーポールの半分くらいはもうすでに服で埋まっている。
実家から持ってきた半纏と高校ジャージ、それに昔ホームパーティで使用したバニーガールの衣装は一体どこに片付ければいいのかしら。
「……」
手近な一枚を手にとってみるとそれはベベスチュアートのもの。雑誌でチェックしていたヤツだった。
慌てて次の一枚を手に取ると、こちらはジュリアーノブルーの新作コート。すべて新品だ。
「うわぁ……」
まるでファッション雑誌の撮影現場みたい。
私は急いでリビングに飛び出し、景久さんの部屋のドアを叩いた。
彼はすぐにドアを開けてくれた。が、何やら電話中のようで、携帯で話しながら私に「少し待て」と仕草で示した。
「ええ、ええ……。そんなに数値が悪いのですか。
……ええ。薬の費用は糸目をつけませんので、保険外の治療でも僕は何も言いません。本人が少しでも楽なようにしてあげてください。はい……ではあとでうかがいます」
なにやらあまりいいお話の最中ではなかったらしく、景久さんは難しい顔をしている。
薬………。病気の話かな。
私は立ったままその話を聞くともなしに聞いていた。