【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
もしかしたら痛風の発作を起こした北条家当主孝昌さんの話かもしれない。
私も一度お見舞いにいかなきゃいけないんだった。正式に籍を入れる前にそういった挨拶方面のこともちゃんとしておいたほうがいいだろう。
ややあって彼は携帯を胸ポケットにしまって顔を上げた。
「お待たせしてすみません」
「いえこちらこそ、大事なお話の途中だったのにすみません」
あまりよくない話だったのか、彼はいつもの柔和な笑みを浮かべてはいない。
「……いいえ」
「孝昌さんの痛風の話ですか」
景久さんははっと顔を上げた。
「いえ、彼はもう退院しています。
ああ、そうですね。僕から話しておくべきだったのに、失念していました。
僕の兄、孝昌は今、気分転換にミラノにいっています。正式な婚儀までにあなたに会って頂くべきだったのに、兄はどうもわがままで。申し訳ありません」
そういう彼の顔には何か苦しげな影がある。まるで景久さん自身が病気になったみたいだ。
ま、たしかに弟が結婚するときに病気はともかく退院後ミラノに気分転換にいっちゃう男って自由すぎるな。
孝昌さんは弟にも弟の嫁にもあんまり興味が無いみたい。
私は心の広い女だから、べつに孝昌さんが私に興味深々でなくてもなんとも思わないわよ。これだけ事情のある結婚なんだし、何事も世間の常識どおりに行かなくても仕方ないわ。
それよりもそんなことで落ち込んでいる景久さんのほうが心配よ。私はそんなこと少しも気にしないのに。
「大丈夫ですか……?なんだか顔色がとっても悪いみたい。お茶でも淹れますか」
「いえ。
それよりもなにかお話があってここにいらしたのでは?」
彼は心ここにあらずといった様子だ。
私はこんな話をしても今の彼の頭には入らないだろうな、と思いながらも人の家(これから自分の家になるわけだが)の事情に口を突っ込むのがはばかられ、孝昌さんの件にはそれ以上言及せずに自分の話を切り出した。
「クローゼットのお洋服なんですけど、あれって……どなたのものなんですか。先代巫女さまのものですか」
景久さんは身振りで私のソファを勧めて自分も座った。