【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】


「雇ってよ」


 私の幼馴染であり、同級生でもあり、ものすごく遠い親戚でもありスナック経営者である田中祐輔はにこにこと笑って答えた。


「俺がスカウトしたのは十年前のお前であって今のお前じゃねーよ」

「……え?いや、人手不足だって言ったじゃない」


 祐輔は何をトチ狂ったのか、十年前まだ大学生だった私を自分の店にスカウトしたことがある。それもカウンターに頭をこすりつけんばかりにしてぜひ私に働いてくれと言った。
 それが今はこの態度である。

「そりゃあ十年前の話。
 今、うちの人手は足りてるし、美人や可愛い子、ブスでも女子大生ブランドがあれば使わないことも無いけど、今のお前、小太りの30女だから」

 彼はさらりと私の話を流して肩をすくめた。

「贅沢いえるような店か!」

 私はきったない場末のスナックのこれまたきったないカウンターを叩いた。
 無名の演歌歌手の黄ばんだポスターを何十年も貼ったままにしておくような店に、美人や可愛い子や現役女子大生が働きに来るか!こんなきったない店の嬢は小太りの中年女で御の字だろうよ!

「うちはこの地元じゃ創業40年の老舗クラブだぜ?ババアはいらねーよ。
 ま、冗談はともかく、お前、久しぶりに帰ってきたんだから一杯くらい飲んで行けよ。仕事大事のお前が盆正月でも無いのにこんな田舎でうろうろしてるんだから、それなりの理由があるんだろ」

 ババアって。
 30歳はババアじゃないわよ女ざかりって言うの!

 私は冗談でもなんでもなくこのきったないスナックで働いてやろうと思ったわけだが、しかし祐輔はわが校で一番優秀で地元の星とまで呼ばれた才媛の私がこんなきったないスナックで働こうといったのを冗談だとしか思えなかったらしい。

「いや、冗談でなくて私は本気でフロアレディーを、」

 彼は私の言葉を遮った。

「ま、何があったのか話してみろよ」

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