【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】


「やった、景久さん男前!さすが金持ち!!」

 私はやや大げさに彼の鷹揚さを褒め称えた。

「……あなたは優しいですね」

 突然彼の発した言葉に私は顔を真っ赤にした。


「は?優しくなんか無いですよ、私のどこが、」

「僕に逃げ道をくれるからですよ。
 僕はあなたから見れば、金で妻を買うような卑しい男かもしれませんが、あなたはそんな僕にもちゃんと見せ場を作って僕を評価しようとしてくれている。
 あなたは思いやりのある優しい女性です」

「い、いや、私はそんないいものじゃ、」

 まさか面と向かってそんな風に言われるとは思わず、私はうろたえた。私は人に馬鹿にされるのは慣れっこだが、しかしこうして面と向かってほめられるのは慣れないし、うまく対処できない。

 彼は明らかに狼狽して様子のおかしい私をまっすぐに見つめた。

「失礼ながら言わせていただくと、僕の見たところあなたは今、自分自身を極端に卑下しているようにみえます。 僕の目から見たあなたは大変心の美しい、頭の良い女性なのに。
 僕は巫女さまの立場にある独身の方であれば、きっと誰にでも結婚を申し込んだでしょうけれど、それでも今、あなたが僕の巫女さまであったこと……心から喜ばしく思っていますよ」

 私はますます顔が熱くなるのを感じた。
 お世辞だったのかもしれない。けれどきれいだの可愛いだのといわれるよりも、心の底がほんのりとあたたかくなるような、それでいて居心地の悪くなるような言葉だった。


 やはり、景久さんは先ほどの喫茶店での会話を聞いていたのだ。愚かな選択をして、仕事も家財道具もすべて失った私……。お金で人生を人に売り渡すほどに窮した私。そんな私の傷ついたプライドに、彼はそっと手を差し伸べてくれたのだ。
 この人は人の心の機微に敏く、そして、とても繊細な優しさで私の心の痛むところをそっといたわってくれる。

 彼の言うとおり、私たちは互いに愛し合って結婚する相手ではないけれど、私も……景久さんが結婚相手で、きっと幸運だったのだろう。

「あ、ありがとう……」
「いいえ、僕の本当の気持ちをお伝えしたまでのことです。
 美穂さん、婚儀の件については随分と時期が早くなってしまいましたが、いつでもこの景久はあなたの半身であり、あなたの味方である事を忘れないでください。
 あなたは僕の、たった一人の巫女さまです。この先どのようなことがあっても、僕は必ず生涯かけてあなたをお守り申し上げます。僕はあなたのよき相談相手であり、あなたの信頼に足るパートナーでいられるように努力します。
 だから、この結婚はあなたにとって不運ではあったけれど、最悪の状況では無いのだと、そう思っていてください」

「……」


 私は頬を赤くしたまま頷いた。
 運転席の景久さんは、うまく言えないけれどいつもの彼よりも凛としていて、それでいて沁みるように優しい顔をしている。

 初めて自分から景久さんに電話をしたとき、私は自分で電話をかけておいて一瞬、久しぶりに見上げる星空に目を奪われて黙り込んでしまった。

 あのとき、景久さんは私に話の続きを促すこともなく、ただ私が話し始めるのを待ってくれた。あのときにも少し感じたことだけれど、私は景久さんのこの余裕が好き……なのかもしれない。


 燃えるような恋は私たちの間にはないけれど、私はきっと、こんなふうに人を好きになっていくことが嫌いじゃない。こんな形で結婚することになってしまった負け惜しみでも何でもなく、素直にそう感じることができるのだ。

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