【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
「婚儀ってずばりセッ○スそのものじゃないのっ!」
部屋に入るなりそう叫ぶと、新聞を読んでいた景久さんは顔を上げて目を見開いた。
「婚儀って普通は結婚式だって解釈するじゃないですか!わざわざ十二単なんて着るなら神前式をするって解釈するじゃないですか!それがっ……ただの夜這いだなんて……っ!!」
私は涙目になってその場に膝をついた。
ひどい。いくら金で買った女だからっていきなり夜這いはないわ。親がこのことを聞いたら泣くわよ。
「夜這い……。夜這いは必ずしも結婚を伴わなくとも成立する行為のことです。
ですからこの場合は妻問いといっていただけるとより正確ですよ」
そんな雑学はどうでもいい、言葉の意味するところは同じだろうが!
「いきなりはイヤ」
私は彼の目線から自身の体を隠すように両腕で自分の体を抱きしめた。
「そうでしょうね。
僕も気が進みませんが、しきたりでは三夜の間、婿が巫女さまの寝所を訪れて契りを交わすことにより二人は正式に夫婦となり、結婚を朱雀様に認めてもらうことが出来るそうです」
うわぁ……昔の儀式がそのまま残っているとはいえ、いきなりセッ○スなんて、なんて野蛮な……。
「やったふりをして一晩中オセロでもしてるってのはダメですか」
「さあ……そういうことをした人がいたという記録は残っていないので、そういうことをした場合どうなるかは今の時点では分かりませんね。
ですが、江戸中期頃の巫女さまが婿で無い男を寝所に引き込んだときは寝所に雷が落ちて巫女さまも間男も即死だったそうです。
神を謀(たばか)る場合は神罰を覚悟したほうがいいでしょう」
「……」
この年になって神罰なんてもので脅されるとは思わなかった。
私は朱雀様なんて信じてはいないけど……でも多くの人がそうであるように、神はいないと完全に信じているわけでもない。だから……怖い。死にたくない。
景久さんは椅子から腰をあげて私の傍まで歩いてくると、床に崩れ落ちている私に手をさしのべた。
「泣いているのですか。結婚とは当然性行為をも含むものとは思わなかったのですか。
僕は当然そのつもりであなたが結婚に同意したものと思っていたのですが」
私は涙目になった目を何度もしばたかせた。
「……そりゃ……いつかはするかもとは思ってましたけど……政略結婚みたいなもんだし。でもこんなにいきなりすることになるとは思わなかったのよおおおお。
しばらく同居して、お互いの人となりを知っていきつつ距離を縮め、一年くらい交換日記とか手作りのお弁当とかで心の距離も縮めて信頼関係ができてから、双方の気持ちが盛り上がったときに合意の下にするものとばかり……だってどこの恋愛漫画でも一応手順は踏んでるじゃないっ」
彼はそれを聞いて神経質そうな眉をあげた。
「そうでしたか。それはお気の毒です。あなたがそういうつもりで結婚を承諾したのなら、この婚儀を省略して差し上げたいのは山々です。
ですが婚儀の省略はやめておいた方がいいと思いますよ。
僕もあなたと心中はしたくないですしね」
「……」
ドライだなぁ……。