【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
婿さまはステキボディだが腹黒い。
小さなため息と共に、景久さんが私から離れた。
途端に私は真っ赤になって顔を両手で覆った。とてもじゃないが彼の顔を見ることは出来ない。
「美穂さん、お疲れ様でした」
彼はそう囁いて、いたわるように私の髪をそっと撫でた。
お疲れ様でしたってアンタ……。
私は顔に当てた指の間から景久さんをちらりと盗み見た。
若干疲れた様子のある彼は、その美貌に変に色っぽい表情を浮かべている。
思わず見とれてしまうほど美しい横顔だ。
もちろんこの年になるまでそれなりに人を見てきた私だ。男は顔では無いということを経験からよくわかっている。
男は顔ではない。
だが私は男の体は非常に重視する。
違うの!誤解しないで!!
そうじゃないのよ、マッチョが好きとかそんな鼻息の荒くなりそうなことを言いたいんじゃないの!
でも……ホラ、ね。この年になれば男は決して眺めて楽しむだけのものでは無いということがわかってくるじゃない。
だから……その。できれば背中の筋肉がきれいで、体力のありそうな、じゃなかった。ええと……そう、健康的!健康的な体の男性に惹かれるのは女性として当然のことであって、決していやらしい目的で男の体がどうこうといっているわけじゃないのよ。
ちなみにわが夫となった景久さんの体はというと、……こう言ってはなんだが、すらりとした普段の姿からは想像もつかないほど体力のありそうな、じゃなかった健康的な筋肉に恵まれている。
何かスポーツでもたしなんでおられるのだろうか。最近の細いばかりで筋肉の無い若い男どもとは違う。
素敵だわ。
景久さんが脱いだらこんなにすごい男だったなんて想像もしなかった。おかげさまで私は好きな芸能人を思い浮かべる余裕すらなかった。
「美穂さん?」
景久さんは少し体を起こして私の様子をうかがった。
私は恥ずかしさのあまり慌てて彼のステキボディから目をそらす。
なんとももったいないことだが、異性のステキボディは時として人の冷静さを失わせる。だから見るなら盗み見る程度がよろしい。直視はいかん。血圧が上がりすぎて健康被害が出る。それでなくとも先ほどまで鼻血の出そうなことをやっていたのだ。これ以上の興奮はよろしくない。
しかしそんな私の努力も空しく、ステキボディから目をそらして思い出すまいとすればするほどかえってけしからん記憶が私の血圧をあげていく。
この人の素敵な体が、わ、私の上で……。
それを思うと脳の血管がどうにかなりそうだった。