【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
私はなんと言っていいものかわからないまま脱ぎ捨てた小袖を引き寄せ、景久さんに背を向けたまま身にまとった。
「どこか痛かったですか。あなたは何も仰らないので、つい僕のいいようにしてしまいました」
私はそれを聞いて思わず奇声を発した。
「痛むのですか?」
彼は気遣わしげに私の足をとって様子を確かめようとする。
私は再び悲鳴をあげた。
「やめてっ!そのキャラでそんなところを覗き込まないでッ!」
「しかし……切れていては大変ですから。……申し訳ありません、僕も久しぶりだったもので、すこし」
「いやああああやめてっ」
私は耳を塞いで衾に顔を埋めた。
久しぶりってお前……。
その人形みたいな顔でそんなこと言う!?ちょっとは乙女の夢を守ろうとかそういうの、ないわけ!?
「お怪我が無いならそれでいいのですが……本当に大丈夫なんですね?」
私は衾に突っ伏したままうんうんと頷いた。
ああ、泣けるわ。
行為が始まる前はあんなに怯えきって逃げようとまで言ったくせに、私ったら……私ったら……後半はノリノリだったわ……。
乾ききって痛いほうがまだマシよ!痛くないどころか存分に楽しんでしまった自分にドン引きしているのよ話しかけないで!
私は両耳を押さえて衾に突っ伏した。すると、衾からなんともいえない男女の肌の香りが感じられてまたぐさりときた。
ああ、私ってなんてイージーな体なのっ!
最初の約束どおり、景久さんは変なことは一切しなかった。
普通の手順で普通のことをしただけ!大人向けの漫画みたいな変な道具や変な薬を使ったわけでもない。ただ……ただ、とにかく夜も紳士で、丁寧だった。それだけ。
でも、今まで自分本位の勝手な男とばかり付き合ってきた私の体はそういう……粗雑なアレに慣れきっていて、あんなに優しくされたことなんて一度もなかったのよ!
その上、景久さんたら脱いでもすごいんだからそりゃ私もいろんな意味でイージーにもなろうというものだ。
何度も言うようだが男は顔では無い。男は体。そして人は心だ。
人は心と言ったそばから前の彼氏と今の夫を比べるのは女性として決してやってはいけないことだと思うが、しかしあえて言わせてもらおう。
グッジョブ……と。
自分の体が大変イージーな体だと知ってしまったショックに震えている私に、景久さんは優しく声をかけてくれた。
「美穂さん、……泣いているのですか?」
「泣いてません一体どこに泣く理由があるというんですかっ!処○でも無いのに!!」
私は衾に顔を埋めるようにしてじたばたと手足を動かした。
「……」
景久さんは小さくため息をついた。
ええ、ええ、呆れるがいいわ。いやいや行為に及んでもいい結果を残せるような勝ち組に、私のようなイージーな体を持ってしまったブスの気持ちなんかわかんないわ。
「女の人の心情は複雑ですね。僕にはわかりません」
女の人が複雑なのではなく、コンプレックスまみれの人間の心情が複雑なのである。小太りでブスで三十過ぎた無職の心に、イヤイヤ参加した行為が意外に良かったというのはなかなかのショックである。
今回の行為を通してわかったことだが、どうやら私は愛とか恋がなくても相手をある程度信用してさえ居ればコトに及べる程度の貞操観念しか持ちあわせていなかったらしい。
もちろん、わざわざ恥をかいてまで私のコンプレックスを説明したって勝ち組には理解なんかできないだろうからこんなことはあえて説明なんかしてやらないけどね!