不滅の恋人~君だけを想う~

この時、彼女を抱きしめていたのは冷静沈着で穏やかな紳士ではなかった。

一人の女性からの愛を渇望する一人の男。

彼は本気だった。

本気の求愛に、戸惑いを見せるフローラ。

これ程までの想いをどう受け止めるべきなのか。

彼女は揺れた。

死したヴァーノンが記憶の中で微笑みかけてくる中、生きているレオンハルトが身体に痛みと温もりをくれる。

戸惑いが際に達した時、レオンハルトは拘束を解いた。


「貴女を想って曲を書きました」


徐に楽譜を取り出し、フローラへ渡す。

その書き出しには《情熱》というタイトルと、彼女に贈る言葉があった。


《僕の心と魂をフローラ嬢に捧ぐ――》


「受け取って下さい。もし破くのならば…僕がいなくなった後に…」

「……弾いて」

フローラはレオンハルトに楽譜を突き付けた。

「今、弾いて聴かせて」

彼の想いを、聴きたい。

レオンハルトの恋情を拒み続けてきたフローラが初めて彼に心を向ける。


「喜んで…!」

彼の笑顔は褒められた子供のように無邪気なものだった。




< 10 / 73 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop