不滅の恋人~君だけを想う~
この時、彼女を抱きしめていたのは冷静沈着で穏やかな紳士ではなかった。
一人の女性からの愛を渇望する一人の男。
彼は本気だった。
本気の求愛に、戸惑いを見せるフローラ。
これ程までの想いをどう受け止めるべきなのか。
彼女は揺れた。
死したヴァーノンが記憶の中で微笑みかけてくる中、生きているレオンハルトが身体に痛みと温もりをくれる。
戸惑いが際に達した時、レオンハルトは拘束を解いた。
「貴女を想って曲を書きました」
徐に楽譜を取り出し、フローラへ渡す。
その書き出しには《情熱》というタイトルと、彼女に贈る言葉があった。
《僕の心と魂をフローラ嬢に捧ぐ――》
「受け取って下さい。もし破くのならば…僕がいなくなった後に…」
「……弾いて」
フローラはレオンハルトに楽譜を突き付けた。
「今、弾いて聴かせて」
彼の想いを、聴きたい。
レオンハルトの恋情を拒み続けてきたフローラが初めて彼に心を向ける。
「喜んで…!」
彼の笑顔は褒められた子供のように無邪気なものだった。