不滅の恋人~君だけを想う~
そう言った彼はフローラを自分の住むアパルトマンに誘った。
どこにでもあるような五階建てのアパルトマンで、青年はその三階を借りているらしい。
部屋に入ると、中央には一台のピアノが置かれていた。
「ピアノはお好きですか?」
「はい」
「それは良かったです」
客人を簡素な椅子に座らせると、青年もピアノの前に座る。
そして徐に弾き始めた。
穏やかな美しい調べ。
アダージョ・カンタービレ。
緩やかに、歌うように。
ノスタルジーを呼び起こさせるメロディーは、フローラの思い出の中のヴァーノンを目の前に甦らせる。
切なさで、フローラの頬にまた涙が伝った。
「この曲は《慰め》といいます」
弾き終わった彼がやおら口を開く。
「辛くなったり悲しくなったりすると、僕はこの曲を自分に弾いて聴かせるんです」
「優しい曲ね…。とても…気持ちが落ち着くわ」