不滅の恋人~君だけを想う~
荒々しい首振りや身体の跳ね上がりなどは一切ない。
穏やかな波のように、ゆったりとした表現。
暗い旋律の中に見え隠れする悲しみや行き場のない想いを緩やかにクレッシェンドさせては、際に達する前にデクレッシェンドさせる。
落とされた想いは未だ晴れずに低迷し、次第に甘美な苦悩へと変わり…。
「誰との《ロマンス》か、知りたい?」
夢心地で聴いていたフローラをジュラの声が現実に引き戻した。
「ヒント。めちゃめちゃ嫉妬深い旦那さんがいる男爵夫人」
「それって…」
自分のことではないか。
そう思ったフローラだが、近くにレオンハルトがいるので口には出さなかった。
気になって夫をチラリと見る。
彼はこちらに背を向けてコートを脱いでいる最中だった。
「彼女のことを考えてたら、いつの間にか出来上がってたんだよね、この曲。慌てて楽譜に書いて永久保存。思いつきで弾いた曲とか、すぐ忘れちゃうからさ」
弾き終えて、ジュラは真っ直ぐフローラを見つめた。
「恋焦がれる感情が溢れてるんだ。この曲はね」