三十路バンドギャルの憧憬邪心LOVE Grail
お金持ちの御曹司、言い換えりゃ、白馬に乗った王子様が、こんな私をお姫様抱っこしに玄関から来るはずねぇもんなぁ。


女としてのタイムリミットを考慮すりゃ、社会人なら誰だっていいかなって、なっちゃうわよね。で、いざ付き合ってみても結局は別れちゃうし、結婚話まで進展したことが一回もない。


何か変化させようとしても気概だけが先行して体はダルがって動かない。


実家を出てから六年、何もせずのうのうと四季の移ろいを見守っていただけだった。


成功してやる。

セレブになってやる。

二度とコロッケ屋になんか帰ってくるもんか。

両親にそう告げたかつての中二的なパワーは衰え、いつしかキラキラの百円玉を勿体なくて使わずにとっておくような小さい女に成り下がってしまった。


毎日youtubeでヴィジュアル系バンド、通称“V系バンド”のMVを見ているうちに三十路が迫ってきやがったのだ。
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