藤色関係もよう
灰汁色(あくいろ)




それは、今までわたしが聴いた叫び声のなかで、一番鋭くて。


ただ一点を狙って急所を貫く弓矢で、心を突き刺されたような感覚だった。



それが自分の罪悪感によるものだったのか、
実際に聴いたことのないような、強烈なものであったのか、
それともほんとうに殺意を持った、わたしを殺しにかかったものだったのか、
わたしには判断することはできなかった。



それだけわたしも絶望し、判断力が低下していた。
そんな1月の深夜、夜明けはまだまだの、スタジオのなかだった。

空は闇に包まれ、空気はぴりぴりと冷たい筈だけれども部屋の中は生暖かく、奈緒子の声以外は何もない。だから彼女の声はスタジオの隅々まで行き渡る。



奈緒子は凍(し)んでしまいそうな、しかし、弱っているからこそ、そして、守るべきものを抱えているからこそ、



生きている、

生きたいんだ、

生きなければならないんだ、


という爆発的なエネルギーが腹の中から溢れ出て、ぴかぴかと光っていた。ようにわたしはその時感じた。


そんな死にそうになりながらぴかぴかと「命」によって強く、強く、

強烈に輝く奈緒子をみて、



消えてしまいたいと感じてじっと、身体を動かすことなく、


23歳のわたしはじっと、そこに立ち尽くしていた。




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