死神のお仕事
そして歩く内に、高層な訳でも無く、オートロックな訳でも無く、豪華な訳でも無いごく普通のマンションの前に到着すると、彼女は入り口から中へと入っていった。
元死神の彼女は今ここで、ごく普通の人間として、ごく普通の毎日を送っているらしい。
彼女が無事に帰宅するのを満足気に見届けたアラタさんは、「帰ろうか」と、私に告げた。二人でまた来た道を戻る。
「アラタさんの、今の意味って何ですか?」
「意味?」
「はい。死神になった時にサエキさんに教えて貰ったっていう」
「あぁ、そうだね。それは…」
チラリと、アラタさんは再びマンションの方へと視線を向けた。そこにもう彼女は居ない。でも、彼の瞳には映っていた。
「彼女の人間としての死を見届ける事。そしてその魂を回収する事。それが死神としての命を貰った僕が彼女にしてあげられる事で、死神として生きた僕がするべきたった一つの事だから」
そう言って微笑むアラタさんの瞳はやっぱり、死を映していた。彼女と共にもう一つ、それだけを見つめていた。でもそこに、暗い気持ちは一つの見当たら無かった。
心からその死を想い、願い、求めている瞳はいつも通り暗く深いものだったけれど、今の私には希望に満ち溢れている事が手に取るように分かった。