死神のお仕事
でも目の前で見て、感じてしまったあの魂だと思うとやっぱり無理だった。他のものと同じだろう事は分かっている。でも実感してしまったのだ。アレは今は亡き人間の魂で、生きていた頃の心臓の形をしたものが、生前住んでいたであろう家に留まっていて、今は行き場を失い彷徨っている。大きな熱量を持って、死神を呼び寄せるように…まるで生きて鼓動するそれを目の当たりにした上で、人間の私がすんなりと受け入れられる訳がない。
今日見たあの魂と他を魂を区別する、これはきっとサエキさん達死神には分からない人間の感覚なのだろう。食べたら同じ魂なのに、アレはダメで他なら良いなんて。…そうだとすると、これから来る元人間の死神さんはどうなのだろうか。
ちょっと怖いなと思う反面、その人が来るのが少し待ち遠しくなった気がする。その人はいつまで人間でいて、いつから死神になったのだろう。きっと点滴をしていたという事は、少なからず気持ちが人間だった瞬間はあったという事。人間を捨てて死神になって…今、後悔は無いのだろうか。
コンコン、
突如響いたリビングのドアがノックされた音に、思わずビクッと身体が反応してしまった。
そんな私を見て笑いながら、「お、来たな」とサエキさんが呟く。どうやら例のその人が到着したらしい。
カチャッと、ソファに座る私の真っ直ぐ前にあるドアが開かれる。その人の姿が私達の視線の先、そこからそっと現れる。
「こんにちは、サエキさんーーと、」
後手に優しくドアを閉めながら、その人は私に目をやった。そしてニッコリと微笑みを浮かべてみせる。
「初めまして、あかりちゃん」