死神のお仕事


そして、「アラタです。よろしくお願いします」そう穏やかな声に乗せて名乗った彼ーーアラタさんは、どこまでも優しげで柔らかな雰囲気を纏っていた。

ふわふわと柔らかな髪は淡い茶色。サエキさんと同じ様に真っ白な肌だけど、瞳の色は黒ではなかった。こちらもまた、穏やかな淡い茶色…なのだけれど、


「おい、何ぼさっとしてんだよ」

「! あ、はいっ、田中 あかりです!よ、よろしくお願いします!」


…やっぱり、その瞳はどこか暗く、色が無かった。瞳の色の問題ではない…やっぱり死神になるというのはそういう事なのだと、その時はっきり理解した。そしてこんなに穏やかで優しげな彼もやっぱり死神なのだと、確信を持った瞬間だった。

死神の瞳は暗い。奥底が見えない、動きの見せない色ーー人間とは違う、感情を乗せない色。


…この人はどんな人なんだろう。

サエキさんと同じ瞳を持ちながらこんなに雰囲気の違うアラタさんに、私はとても興味を持った。彼を知りたいと思った。


「じゃあコレ。こいつに使う分の代わり」


私がボーッとアラタさんを眺めている間にそう言ってサエキさんが取り出したのは袋で、アラタさんはそれをはい、と受け取って…あ!


「そ、それは!」

「ん?あぁ、そう。そういう事だ」


え?そういう事って…?なんて首を傾げてもサエキさんには伝わらない。ただ私はまさかそれってさっきのじゃ⁈ という意味で言ったのに、そういう事はどうもサエキさんには上手く伝わらないらしい。

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